たとえ内容が同じでも、見せ方や表現を変えることで印象が変わる心理作用を、行動経済学では「フレーミング効果」と言います。
例えば、あなたが死にかかわる重い病気にかかったとします。助かるために手術を受けなければいけないとしたら、次のうちどちらを選びますか?
- A:成功率95%の手術
- B:2000人のうち100人が死亡する手術
Aの手術の方が、安心できる気がしませんでしたか?
実はどちらも同じ内容を言っていますが、表現を変えるだけで、ずいぶんと印象が変わりますよね。もしもあなたがお医者さんの立場なら、Aのように伝えることで、手術を受けてもらいやすくなるということです。
このように、フレーミング効果を効果的に使うことができれば、人を説得しやすくすることができます。マーケティングやコピーライティングでは欠かせない要素ですので、ぜひマスターしておきたい心理学です。
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フレーミング効果 とは
フレーミング効果(Framing effect)とは、問題や質問の仕方によって意思決定が変わってしまう心理作用のことです。
フレーミングのフレーム(Frame)とは、絵画でいうところの額縁のことです。
つまりフレーミング効果は、対象のどこを切り取ってフレームに収めるかによって、印象が大きく異なることを表しています。「ものは言いよう」と表現されることもある心理効果です。
1981年の『サイエンス誌』で、行動経済学者のダニエル・カーネマン氏と、共同研究者であった心理学者のエイモス・トヴェルスキー氏によって発表されました。
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フレーミング効果の実験
フレーミング効果の現象を示す有名な実験に、「アジアの疾病問題」と呼ばれるものがあります。
カーネマン氏とトヴェルスキー氏は、つぎの問題を設定して学生に尋ねました。あなたならどのような選択をするか、一緒に考えてみてください。
- 対策A:200人が助かる
- 対策B:1/3の確率で600人が助かるが、2/3の確率で誰も助からない
この問題の解答結果は、Aが72%、Bが28%でした。あなたはどうでしたか?
さらに問題1と同じ状況の問題2を設定して、別の学生に尋ねました。
【問題2】600人が死亡すると予想される特殊なアジア病の流行に備えて、2つの対策が提案されている。あなたならCとDのどちらを選ぶか。
- 対策C:400人が死ぬ
- 対策D:1/3の確率で誰も死なないが、2/3の確率で600人が死ぬ
こちらの解答結果は、Cが22%、Dが78%でした。先ほどの回答と、ほぼ反対の結果ですね。
すでにお気づきだと思いますが、対策Aと対策Cは、表現を変えただけで同じことを言っています。同じように、対策Bと対策Dも同じことを言っています。
表現を変えただけなのに、なぜこんなにも結果が変わってしまうのでしょうか?
フォーカスの当て方でプロスペクト理論の心理が働く
- 【問題1】の選択肢では「助かる」
- 【問題2】の選択肢では「死ぬ」
に、フォーカスを当てていることに注目してください。
人は利益を得る場面では「リスクを避けて確実に手に入れること」を優先し、反対に、損失を被る場面では「リスクを背負ってでも最大限に回避すること」を優先する傾向があります。
このような心理傾向は、行動経済学では「プロスペクト理論」や「損失回避の法則」と呼ばれます。
【問題1】では、「助かるかどうか」というポジティブな要素(利益)にフォーカスを当てています。この場合は、全員が死ぬリスクを避けて、助かる人数を確実に確保したい心理が働きます。
ですので、確実に200人が助かる対策Aを選びやすくなります。
一方の【問題2】では、「死ぬかどうか」というネガティブな要素(損失)にフォーカスを当てています。この場合は、リスクを負ってでも、死なない人数を最大にしようとする心理が働きます。
ですので、誰も死なない可能性がある対策Dを選びやすくなります。
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フレーミング効果をマーケティングに応用する
何にフォーカスするかの違いで判断が変わるフレーミング効果は、マーケティングではメッセージに応用することができます。
予防商品はネガティブに訴えると注目されやすい
先ほどの実験から、「損をしたくない」気持ちに訴える予防商品などの場合は、ネガティブな要素にフォーカスすると説得しやすいことがわかります。
例えば、満足度50%の防犯商品があった場合は、ポジティブに訴えるAよりも、ネガティブに訴えるBのように表現した方が説得しやすくなります。
- A:この予防対策で、50%の人が安心できます
- B:何も予防対策しなければ、50%の人が危険なままです
また、人は得をする感覚よりも、損をしたくない感覚の方が2倍以上強いので、ネガティブな要素にフォーカスを当てると、問題意識の低い人にも注目されやすくなる傾向があります。
そのため、注目度の低い健康診断の場合などは、ポジティブに訴えるAよりも、ネガティブに訴えるBのように表現した方が注目されやすく、説得しやすくなります。
- A:受診すれば、ガンの早期発見ができる機会が増えます
- B:受診しなければ、ガンの早期発見をできる機会を逃してしまいます
推進商品はポジティブに訴えた方が効果的
大抵の商品の場合は、ポジティブな要素に訴えることで説得しやすくなります。
例えば、牛挽肉の品質を評価する場合では、次のように表示する実験を行ったところ、ポジティブに訴えるAの方が「味がよく、脂っこくない」と評価されました。
- A:赤身75%
- B:脂身25%
オレンジジュースの表示を思い返してみれば、どちらを飲みたいと感じるかわかりますよね。
- A:果汁20%
- B:果汁以外80%
このように一般的な促進商品の広告宣伝では、ポジティブな要素を積極的に訴えた方が良いことがわかります。
ですので、例えばサービスに不満を感じる人が3%で、それが凄いことだったとしても、BではなくAのように「満足度97%」のポジティブな要素にフォーカスすることが大切です。
- A:このサービスの満足度は97%です
- B:このサービスの不満度はわずか3%です
推進商品の場合は、ネガティブな要素はできるだけ小さく扱うようにします。
広告でお得感を演出するフレーミング効果の応用例
フレーミング効果を応用すれば、「小さな単位」にフォーカスすることで、お得感のある表現方法に変えることができます。
これは、人が持っているイメージを使った錯覚でもありますので、シャルパンティエ効果の応用とも言えます。シャルパンティエ効果とは「大きさと重さの錯覚」のことで、マーケティングでは錯覚を利用した比喩表現として応用されています。
時間のお得感
短い時間を表現したい場合は、「時間」という単位は「分」に変えることで、短時間のようにできます。「時間=長い」「秒=短い」というイメージの利用です。
「1時間」よりも「60分」、さらには「3600秒」の方が短い感じがしませんか?
- 高速道路で1時間15分
- 高速道路で75分
多さのお得感
多くの容量を表現したい場合は、「g」よりも「mg」と、小さな単位に変えて、数字を大きく表現することができます。
「1g」よりも「1000mg」の方が、多いような気がしませんか?
- タウリン1g配合
- タウリン1000mg配合
安さのお得感
安さを表現したい場合は、「総額」よりも「分割」にして、小さな数字で表現した方が安く感じます。
例えば年間12,000円かかる商品は「1日あたり、たったの33円です」と小さな数字にフォーカスすることで、お得を感じる表現にできます。自動車のCMなどでも、数百万円の価格を「月々わずか◯円でオーナーになれる」といった表現をしていますよね。
- 電気代は一年間で96,000円です
- 電気代は1日267円です
また、桁を小さくすることでお得を感じてもらうことができます。「100円」の商品は、1円安くして「99円」とした方が、桁が変わってお得を感じやすくなります。
- 10,000円
- 9,800円
よりお得な『無料』にフォーカスする
よりお得なことを表現するためには、『無料』にフォーカスするようにします。
例えば、「50%OFF」よりも、「2つ買えば1つ無料」という表記の方が売れやすくなります。
- 50%OFF
- 2つ買えば1つ無料
お客さん100人を1%値引きするよりも、「100人にひとり無料キャンペーン!」と、『無料』のお得にフォーカスした方が宣伝効果が高くなります。
- 100人全員1%引き!
- 100人にひとり無料!
このように、マーケティングでフレーミング効果を応用して表現する時には、お客さんがお得を感じる要素にフォーカスを当てることが大切です。
まとめ
フレーミング効果とは、モノゴトの見方、フォーカスの当て方、表現方法を変えることで印象が変わる心理現象です。印象が変わることで判断も変わります。
マーケティングを考える際には、予防商品にはネガティブな要素にフォーカスを、促進商品にはポジティブな要素にフォーカスを当てることで、注目されやすくなり、説得しやすくなります。
男性ではポジティブな説得の方が効果が高く、女性ではネガティブな説得の方が効果が高いという報告もあります。あなたのお客さんはどのような傾向にあるのかも考えながら、マーケティングに役立ててみてください。
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