顧客心理を掴む心理学

本当は怖いダブルバインドとは?交渉相手にNOを言わせない催眠心理学

2017-11-12

ダブルバインド

セールスが上手い人、モテる人、他人を動かすことが上手な人は、意識的か無意識的か、ダブルバインドを巧みに使っています。

例えば、「あなたは犬派ですか? 猫派ですか?」

このようにして尋ねられると、たとえあなたがリス派だったとしても、「・・・どちらかと言えば犬派かなぁ」と、どちらかを答えませんでしたか?

どちらも好きではないはずなのに、無意識にどちらかを選んでしまったことになります。

本来の心理学で使われるダブルバインドは、相手を思考停止させてストレス状態に陥らせる危険なコミュニケーションパターンです。

このダブルバインドを正しく理解して応用すれば、ビジネス、恋愛、様々な場面で会話を優位に進めることができます。大げさに言えば、思いどおりの人生を歩めるかもしれません。

洗脳にも使われるダブルバインドとは何か? 相手の無意識に働きかける、ダブルバインドを使った説得方法についてお話しします。

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ダブルバインドとは

ダブルバインド(Double bind)とは、「2つ以上の矛盾した内容のメッセージを受け取った者が、その矛盾を指摘することができず、さらに応答しなければいけないことで、精神状態が拘束されて身動きが取れなくなること」を意味します。

日本語では「二重拘束」と翻訳されます。

ダブルバインドの具体例

たとえば子供の頃、何か悪いことをした時に、お母さんから「なんでこんなことをしたの? 怒らないから正直に話しなさい」と言われて、素直に説明をしたら “怒られた” ということはありませんか?

また、レストランで「なんでも注文していいよ」と言われたので好きなものを注文しようとすると、「もうちょっと栄養のある違う料理にしなさい」と言われてしまったり。

「◯△をしろ」と言ったのに、次は「◯△はするな」と矛盾したメッセージが発せられます。どちらに転んでも正解はなく、「お前のためを思って言ってるんだぞ」と言われて逆らうこともできず、心を閉ざした経験があるかもしれません。

これがダブルバインドです。

グレゴリー・ベイトソン氏による造語

ダブルバインドという言葉は、アメリカの文化人類学・精神医学などの研究者だったグレゴリー・ベイトソン(Gregory Bateson)氏による造語です。

統合失調症の子供をもつ家族を調査する中で発見されたコミュニケーションパターンで、1956年に発表された論文『精神分裂病の理論化に向けて』によって提唱されました。

ベイトソン氏は、ダブルバインドが繰り返されることで、精神分裂症の発症リスクが高まるとするダブルバインド理論の仮説を立てました。

現在の精神病理学では、幼少期のダブルバインドが統合失調症の原因として認められているわけではありませんが、ダブルバインドによる心理的なストレスは確認されています。

ダブルバインドは、人間を壊す危険のあるコミュニケーションなんですね。

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ダブルバインド理論の定義

ダブルバインドとは

ダブルバインド状態は、次の要素によって起こると定義されます。

  1. 2人以上の関係者
  2. 第一メッセージの発生と、第一メッセージを否定する第二メッセージの発生
  3. メッセージを受けた者が、どちらのメッセージに従っても罰せられると感じて混乱が生まれる
  4. メッセージを受けた者が、矛盾する状態から逃げてはいけない状況に追い込まれる
  5. メッセージを受けた者が、ダブルバインド状態であることを認識する
  6. メッセージを受けた者が、ダブルバインドを繰り返し経験してストレスを受ける

メッセージの矛盾は、表面的な言葉による矛盾だけではなく、メタメッセージとの矛盾があります。

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ダブルバインドで使われるメタメッセージとは

メタ(meta)とは、「高次な〜」「超〜」「〜間の」「〜を含んだ」「〜の後ろの」といった意味がある、ギリシア語の接頭語です。
参照サイト:wikipedia/メタ

メタメッセージとは、表面的な言葉(言語メッセージ)の意味を超えた、別の意味があるメッセージのことを言います。こちらもベイトソン氏による概念です。

メタメッセージの例え

メタメッセージがわかりやすいのは、「本音と建前」です。

お茶漬け

例えば、京都人の気質を表す有名なエピソードに「ぶぶ漬けでもどうどす?」という言葉があります。

ぶぶ漬けとはお茶漬け(軽食)のことですが、お邪魔していた友人宅に長居していて「ご飯を食べて行ってよ」と誘われて遠慮せずにご馳走になってしまったら、『空気が読めない非常識なヤツ』と非難を受ける可能性があります。

「ぶぶ漬けでもどうどす?(ご飯を食べて行ってよ)」という言葉には、『・・・そろそろ帰ってほしい』という意味が込められているからです。

「ぶぶ漬けでもどうどす?」という建前が言語メッセージで、『そろそろ帰ってほしい』という本音がメタメッセージです。本音と建前が異なるので、メッセージが矛盾しています。

素直な気持ちで言葉に従ったら避難を受けるなんて、ひどいダブルバインドですよね。

メタメッセージは日本人に馴染み深い?

ちなみに現代では、「ぶぶ漬けでもどうどす?」なんて言い回しはしません。(京都生まれ京都育ちの僕の経験上です)

「ご飯食べて行くか?」と言うところもあるかもしれませんが、

  • 「・・・そろそろ帰らないと、家の人が心配してない?」
  • 「・・・明日、早いんじゃない?」

といった言い方をします。

これはきっと、京都じゃなくても同じですよね。

これも、「家の人が心配してない?」という言語メッセージに含まれる『そろそろ帰ってくれない?』というメタメッセージですね。断りの意味で使う「検討します」という言葉も、メタメッセージのひとつです。

そう考えると、本音と建前を使い分ける日本人には、メタメッセージは馴染みがある存在かもしれないですね。

非言語メッセージによるメタメッセージ

言葉に含まれる別の意味じゃなくても、表情やしぐさなどによる「非言語メッセージ」が矛盾したメタメッセージにもなります。

例えば、何かプレゼントをあげた時に、相手が引きつった顔をしながら「ありがとう」と言ったとしたら、「迷惑だったかな・・・」と感じてしまいますよね。

「仕事が遅れてすみません・・・」と謝ってきた部下に対して、しかめっ面で「いいよ、大丈夫だから」と返事をすれば、「怒らせちゃったな・・・」と認識されてしまいます。

言葉による言語メッセージと、表情や態度による非言語メッセージが違うので、矛盾したメタメッセージになります。

言語メッセージよりも非言語メッセージの方が影響力が強い

人は言語メッセージ(バーバル・コミュニケーション)と非言語メッセージ(ノンバーバル・コミュニケーション)に矛盾があった場合、非言語メッセージを信じやすい傾向があります。

これを心理学では、メラビアンの法則と言います。

ですので、相手に誤解されないためには、言語メッセージと非言語メッセージは一致させることが大切です。

モラルハラスメント・パワーハラスメントにもなる否定的ダブルバインド

ネガティブダブルバインド

ダブルバインドには、否定的ダブルバインドと、肯定的ダブルバインドがあります。

どちらのメッセージに対応しても不正解に導いてしまうのが、否定的ダブルバインドです。

親子関係だけではなく、会社での上下関係の場合は、モラルハラスメントやパワーハラスメントにつながります。

例えば、「いちいち相談せずに、自分で判断しろ」と言ったにもかかわらず、危なっかしい判断を見て「相談しろよ!」と責めてしまうようなケースです。

また、仕事で失敗した原因を突き止めようと、「どうして失敗したか理由を説明してくれ」と尋ねた後で、「そんな言い訳はするな」と叱ってしまっては、部下はどうして良いか分からず、やる気を失くしてしまいます。

このようなダブルバインドを続けていると、矛盾したメッセージを受け取った立場の弱い側は、混乱や緊張から自由な意思決定ができなくなってしまいます。

相手を思いやっているつもりでも、知らず知らず相手を精神的に追い込んでいる場合があるので注意が必要ですね。

「洗脳・ツンデレ・DV」もダブルバインド

洗脳やツンデレ、DVも、ダブルバインドが使われています。

洗脳のダブルバインド

カルト宗教が使う初期段階の洗脳では、「今の世界にいてはあなたはダメになる」「今のままでは家族も救えない」と、現在の状況を否定されて修行を促されます。

修行をしても「その程度じゃダメだ」と否定されて、さらに言うことを聞かなければいけないようになっていきます。

ツンデレのダブルバインド

ツンデレの場合は、普段はツンツンして冷たいけど、たまにデレッと甘えてくるという「好き」と「嫌い」のメッセージを繰り返されます。ぎゅっと抱きしめられたかと思うと、「お前のことは別に好きじゃないからな」と言われたりします。

矛盾したメッセージを受け取った側は、不安な気持ちの中に、ほんの少しの「好き」を見つけるだけで安心できるようになってしまいます。

DVのダブルバインド

DV被害者がなかなか別れられない原因も、「本当は優しい人、悪いのは自分、この人がいないと私はダメ」という、相手への依存が生まれてしまうためです。

暴力のあとで「ごめんな、本当はこんなことしたくないんだ、お前のためを思っているんだ・・・」と優しくされることで、ダブルバインド状態が起こるんですね。

催眠治療に使われる肯定的ダブルバインド

ポジティブダブルバインド

どちらのメッセージに対応しても正解に導こうとするのが、肯定的ダブルバインドです。

アメリカの催眠療法家・心理学者のミルトン・H・エリクソン(Milton H Erickson)氏が、ダブルバインド理論を催眠治療に昇華させた手法です。

ベイトソン氏のダブルバインドと区別するために、「治療的ダブルバインド」「エリクソニアン・ダブルバインド」とも呼ばれます。

例えば、エリクソン氏の催眠治療では、言うことを聞きたくない患者に対して、

「こちらへ来たくなければ、その場所で立ったまま話を聞いても良いですし、座りたくなったら、こちらへ来て座ってもかまいません」

と言って催眠治療をはじめます。

患者は気づきませんが、どちらを選んでも催眠治療をはじめる前提のメタメッセージが含まれています。

あなたをポジティブに導く質問

「気づいていますか? あなたには無限の可能性があることを」

YESなら、あなたには無限の可能性があることを自覚できます。NOであっても、無限の可能性があることに気づいていないだけということなります。

どちらに転んでも、「自分には無限の可能性がある」ことを自覚できるようになるんですね。

エリクソン氏はこのような質問を繰り返して、催眠治療を行っていました。

誤前提暗示を利用したエリクソニアン・ダブルバインド

人はもっともらしい前提や選択肢を与えられると、与えられた選択肢の中から判断を下しやすい傾向があります。

複数の選択肢があるはずなのに「Aですか?それともBのどちらですか?」と、誤った前提で尋ねられれば、与えられた選択肢の中から選んでしまいやすくなるんですね。

誤った前提を使って答えを導く心理テクニックのことは「誤前提暗示」と言います。

先ほどの「気づいていますか? あなたには無限の可能性があることを」という質問にしても、『無限の可能性がある』ことを前提にした誤前提暗示です。

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交渉に応用するエリクソニアン・ダブルバインド

交渉で使うダブルバインド

相手に前提を気づかせないエリクソニアン・ダブルバインドを応用することで、相手にNOを言われない交渉ができるようになります。

その方法は、交渉したい相手に「YESの前提を含ませたメタメッセージ」で選択を与えます。

ビジネスシーンで使うダブルバインド

例えば、商品を提案するときに「この商品はいかがですか?」と尋ねれば、お客さんに『必要・不要』の選択をさせることになります。

これをダブルバインドを使って、「このA商品とB商品では、どちらがお好みですか?」という購入の前提を含ませたメッセージに変えれば、お客さんの頭の中から『必要・不要』の選択肢を無意識に除外させることができます。

「ご一緒にポテトはいかがですか?」と尋ねるよりも、「ご一緒にお召し上がりになれるポテトには S・M・Lの3種類からお選びいただけますが、いかがされますか?」と尋ねた方が、購入率が上がりやすくなるということですね。

前提を含ませたメタメッセージ

前提のメタメッセージを応用すれば、選択肢を設けなくても誘導したいメッセージがつくれます。

キンキンに冷やすと、より一層美味しくお召し上がりいただけます

すでに手に入れた状態を想像させるメタメッセージです。

アンケートにお答えいただくだけで差し上げています

アンケートに答えなければもらえないことを示唆したメタメッセージです。

恋愛シーンで使うダブルバインド

恋愛シーンでも、YES or NO を選ばせるのではなく、YESを前提としたメタメッセージで尋ねることで承諾率を上げられます。

例えば、「今度の休み、遊びに行かない?」と尋ねた場合は、YESの可能性は50%です。

これを「今度の休み、遊園地か映画に行かない?」と尋れば、どちらを選んでも遊びに行くことには100%のYESをもらえることになります。

恋愛での会話例

ダブルバインドは、イエスセット話法フットインザドア・テクニックと複合させれば、さらに承諾率の高い交渉ができるようになります。

A:「俳優の◯◯さんが好きって言ってたっけ?」
B:「うん、好きだよ」
A:「今度、新しい映画に出るらしいけど、知ってた?」
B:「うん、知ってる」
A:「前に出てた映画と今度の映画だったら、どっちの役柄が好き?」
B:「今度の役柄かなぁ」
A:「そう言えば、遊園地も好きって言ってたよね?」
B:「うん、好きだよ」
A:「最近、遊園地には行ってないんだっけ?」
B:「うん、そうなの」
A:「じゃあ今度の休み、遊園地か映画に行かない? どっちが好き?」

Bさんからしてみれば、どちらに転んでもマイナス要素はないですから、OKしやすくなります。

ダブルバインドを使うときの注意点

ダブルバインドは、相手に「選ばされた」と思われてしまうと効果がなくなります。あくまで「自分が決めた」と思ってもらうことが重要です。

そのためには、前提を含んだメタメッセージは、選択しやすい内容であることが大切です。

例えば、あまり仲良くなっていない状態で「今度の連休に、泊まりで温泉旅行か、朝まで飲まない?」という選択にしたところで、「どちらもイヤ」と断られてしまいます。

ビジネスシーンでもそうですが、選択しやすい内容でなければ、ダブルバインドはうまくかないんですね。

誤前提暗示は最後の選択肢が選ばれやすい

ちなみに選択肢を与えた場合は、最後の選択肢が選ばれやすい傾向があります。これは新近効果による影響です。

もしも遊園地に行きたければ、「今度の休み、遊園地か映画に行かない?」と尋ねるよりも、「今度の休み、映画か遊園地に行かない?」と尋ねる方が、遊園地を選んでもらいやすいということですね。

覚えておいて損はないと思います。

エリクソニアン・ダブルバインドを詳しく知りたいあなたにオススメできる本

20世紀最大の催眠療法家と呼ばれたミルトン・エリクソン氏は、ダブルバインドのような間接的な暗示を使う天才でした。

こちらの書籍は、故ミルトン・エリクソン氏の催眠誘導をわかりやすく学ぶことができる、たいへん希少な一冊です。ダブルバインド以外のたくさんの暗示手法や、心理テクニックが解説されています。

交渉や会話術としても応用できるテクニックが数多く得られますので、言葉による催眠暗示テクニックに興味があれば、じっくりと学んでみてください。

書籍としてはけっこうな価格に感じますが、その価格に見合った貴重な知識を得ることができます。

▼売る商品より大事なもの▼ウェブセールスライティング習得ハンドブックcp-b

まとめ

ダブルバインドとは、2つ以上の矛盾を含んだメッセージを受け取ることで、板ばさみになることを言います。繰り返されると、精神的にストレスを受けた状態になります。

自分では気づかないうちに、モラハラやパワハラをしてしまっている可能性があるので、気をつけたいコミュニケーションパターンですね。

このダブルバインドを応用することで、NOを言われない交渉をすることができます。

前提を含ませたメタメッセージで選択肢を与えれば、どちらに転んでも目的を達成することができます。ただし、相手のことを無視した選択肢を与えた場合は、NOを言われてしまいます。

ダブルバインドを正しく理解して、優位な交渉に役立ててください。

さらに説得力を高める方法を知りたい場合は、こちらを参考にしてください。
説得力を高める16の秘訣|心理テクニックでYESを引き出す方法

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  • この記事を書いた人

高木浩一

心理学と脳科学が好きなマーケティング・Web集客の専門家/解脱しかけのゲダツニスト/ 大企業のマジメな広告デザインから男性を欲情させるアダルティな広告デザインまで、幅広い分野を経験した元グラフィックデザイナー。心理面をカバーしたマーケティングとデザインの両方の視点をもつ。個人が個人として活躍する時代に向けて「使えるマーケティング」をモットーに情報発信中。

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