顧客心理を掴む心理学

説得の本質に迫る精緻化見込みモデルとは?|中心ルートと周辺ルート

2017-09-07

精緻化見込みモデル(中心ルートと周辺ルート)

あなたが誰かを説得したいなら、中心ルート周辺ルートの2つの思考パターンを知っておくことが大切です。

なぜなら、人は説得を受けた時、この2つの思考パターンをたどって態度が変わるからです。

例えば、あなたの周りでは「この人の話って、なんだか説得力があるんだよなぁ・・・」とか、「なんかピントがボヤけた説明だなぁ・・・」なんて感じた人はいませんか?

説得がうまいかどうかは、説得相手の思考パターンに沿った情報を提供できているかどうかの違いです。

この記事では、説得によって態度が変化するプロセス(中心ルートと周辺ルート)を表した、精緻化(せいちか)見込みモデルを解説します。

この記事を読むことで、恋愛や人付き合いでは、自分の主張を思いどおりに通す方法がわかります。また、ビジネスやコピーライティングに応用すれば、成約を獲得できるコツがわかります。

説得の本質に迫る精緻化見込みモデルを理解して、影響力のある説得的コミュニケーションを手に入れてください。

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相手を説得する2つのルート(精緻化見込みモデル)

人は他者から説得的なコミュニケーションを受けた時、説得されるメッセージに対して

  • 動機(興味)があるか?
  • 受け止める能力があるか?

の違いで、2つの思考パターン(中心ルートと周辺ルート)に分かれます。

その様子を表したのが、精緻化見込みモデル(ELM:Elaboration Likelihood Model)です。「精査可能性モデル」とも訳されます。

1986年に、アメリカの心理学教授リチャード・ペティ(Richard Petty)氏と社会神経科学者のジョン・カシオッポ(John Cacioppo)氏によって発表されました。

精緻化見込みモデル(ELM)のイメージ図

精緻化見込みモデル(ELM)のイメージ図

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中心ルート(中心経路)とは

精緻化見込みモデルの中心ルートとは、説得されるメッセージについて、動機(興味)を持っていて、知識や経験がある場合の思考パターンです。

自分にとって重要な決断をする場合には、中心ルートで考えます。

中心ルートで考える例え

  • 家や車のような価格の高いモノを買う時
  • 仕事や保険を選ぶ時
  • こだわりのあるモノ

プラス面やマイナス面の客観的な事実やデータに基づいて、論理的に判断できる要素で慎重に意思決定をします。

論理的に判断する中心ルートの例え

例えば、多くの人にとって車は大きな買い物ですよね。ですので、車の広告を見たからといって「よし、今すぐ買おう!」というような決断はしないはずです。

「車が欲しいなぁ」という動機(興味)があって、車についての知識もある程度持っている場合に、車の広告を見て買うか買わないかの検討を始めます。

意思決定をする際には、他の車と比べたり、オプションを検討したり、燃費や操作性など、いろいろなことを考慮して決断に至ります。知識や経験があるからこそ、いろんな比較検討をします。

中心ルートをたどった決断は長期間持続する

中心ルートをたどって変わった態度については、長期間にわたって考えが変わらない傾向があります。なぜなら、手にできるあらゆるデータを使って真剣に検討したからです。

一度下した決断が簡単には変わらない思考パターン。

これが精緻化見込みモデルでの中心ルートの特徴です。

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周辺ルート(周辺経路)とは

精緻化見込みモデルの周辺ルートとは、説得されるメッセージについて、動機(興味)がなく、あまり知識もない場合の思考パターンです。

自分にとってあまり重要ではない決断の場合には、周辺ルートで考えます。

周辺ルートで考える例え

  • 日用品やお菓子のような価格の安いモノを買う時
  • こだわりのないモノ

中心ルートとは違って、説得されるメッセージについては深く考えることはありません。

  • 誰が説得しているのか?
  • 見た目が好みか?
  • 有名なモノか?

というような、直感的に判断できる要素で簡単に意思決定をします。

周辺ルートの例え

例えば、多くの人にとって100円のお菓子を買うことは、それほど重要なことではないですよね。ですので、衝動買いをしたり、なんとなくで買うか買わないかを決める傾向があります。

意思決定をする時には、テレビCMで商品を知っているとか、パッケージデザインが好みなど、良いイメージを持つかどうかで素早く決断に至ります。わざわざパッケージを裏返して、成分表を厳重にチェックするようなことしないはずです。

そもそも成分に関する知識がなければ、チェックしようにもできないですよね。

価格が安くても重要な選択は中心ルートになる

ただし、価格が安いモノであったとしても、重要な選択の時には中心ルートで考えます。

例えば、あなたやあなたの家族が食品アレルギーを持っていて、食べ物を慎重に選ぶ必要がある場合などです。

この場合は、アレルギーに関しての知識を持っているはずです。ですので、パッケージデザインの好みだけでお菓子を選ぶようなことはせず、成分表を厳重にチェックして、食べても安全かどうかを調べるはずです。

周辺ルートをたどった決断は短期間で変わる可能性がある

周辺ルートをたどって態度が変わった場合には、短期間で考えが変わる可能性があります。なぜなら、なんとなくのイメージで決断するため、改めて考える機会があった時には、視点を変えて考え直すかもしれないからです。

決断が簡単に変わる可能性がある思考パターン。

これが精緻化見込みモデルでの周辺ルートの特徴です。

脳は周辺ルートでサボりたがる

なぜ思考パターンが、中心ルートと周辺ルートに分かれるのでしょうか?

それは、僕たちの脳のサボり癖が原因です。

熟考が必要な中心ルートは、エネルギーを必要とします。毎回毎回、熟考したのでは、脳がすぐに疲れてしまうんですね。

ですので、脳はできるだけ省エネで活動するために、直感的に意思決定ができる周辺ルートで思考しようとします。周辺ルートとは、脳が意思決定の際に行うショートカットなんですね。

脳が行うショートカットは、行動経済学では「ヒューリスティクス」と言います。

そして、たとえ中心ルートで考えようとしている説得メッセージであったとしても、疲れていたり、ストレスがある状態だとしたら、脳は熟考することができず、周辺ルートでの思考パターンをたどります。

詐欺師は意図的に周辺ルートへ向かわせる

詐欺師たちは、この脳の特性を熟知しています。

騙す相手を中心ルートの思考パターンにならないように、脳にストレスを与えて慎重な判断ができないようにします。

例えば、オレオレ詐欺の場合は、身内の声であることを冷静に判断させないように、「相手を怪我させて大変なんだ!」「今すぐお金が必要だ!」などと、騙す相手を心理的に追い込んでパニック状態にさせます。

冷静さを失うと、脳は中心ルートをたどった思考ができなくなるんですね。

だから、冷静に聞けば他人だとわかる声でも、騙されてしまうというわけです。

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マーケティングで使う精緻化見込みモデル

マーケティングには、次のような格言があります。

「人は感情で買い物をして、理屈でそれを正当化する」

人を説得するためには、まずは感情に訴えることが大切です。

感情に訴えるためには、論理的に判断する中心ルートではなく、直感的に判断する周辺ルートでのアプローチが重要になります。なぜなら直感的な判断は、動物的な本性(感覚・感情)がウエイトを占めるからです。

周辺ルートを使った6つの説得方法

社会心理学者のロバート・B・チャルディーニ氏は、周辺ルートを使った説得には6つの方法があるとして、著書『影響力の武器』の中で紹介しています。

直感的に良いイメージを持ってもらうためには、これらの説得方法を使います。

6つの説得ワード

  1. 返報性
  2. コミットメントと一貫性
  3. 社会的証明
  4. 好意
  5. 権威
  6. 希少性

1. 返報性

人は他者から何かをしてもらったら、思わずお返しをしようとする傾向があります。そのため、相手から親切にされると、相手の説得に応じやすくなります。

例えば、店員さんが丁寧に接客してくれてプレゼントまでくれたとしたら、何も買わないで帰るのは申し訳ない気持ちが生まれますよね。

2. コミットメントと一貫性

人は一度何かを決めたら、最後まで一貫した態度を取ろうとする傾向があります。そのため、一度「Yes」と言うだけでも、相手の説得を断りにくくなります。

例えば、「この商品はお好きですか?」と聞かれて「はい」と答えたとしたら、次に「買いますか?」と聞かれたら「いいえ」とは言いづらくなりますよね。

3. 社会的証明

人は大勢の他者の行動を見ることで、信用しやすくなる傾向があります。初めて見るお店でも、行列ができていれば「間違いない」と安心できますよね。

  • 利用者◯万人突破
  • リピート率90%超
  • いま一番売れています!

このような人気を感じる表示があるだけでも、説得に応じて商品を選びやすくなります。

4. 好意

人は見た目に美しい人や、自分と境遇が似ている人に好意を抱きやすい傾向があります。そのため、印象の良い人から商品を薦められるだけでも、説得に応じやすくなります。

好感度の高い有名人をテレビCMに起用するのはこのためです。また、感じのいい店員さんの接客を受けることでも、「買おうかな」という気持ちが起こりますよね。

5. 権威

人は自分よりも強い存在には従おうとする傾向があります。そのため、警察・医者・弁護士など、権威を感じる肩書きの人には弱い側面があります。

  • ◯◯賞受賞
  • プロが選んだ◯◯
  • 公式認定

このような権威を感じるラベルがあるだけでも、説得に応じて商品を選びやすくなります。

6. 希少性

人は希少価値の高いモノが大好きです。これは動物としての本能です。

例えば、店員さんに「ラスト1個です」と言われただけでも、気になってしまいますよね。

  • 限定◯個
  • 地域限定
  • おひとり様◯個まで

このような表示があるだけでも、説得に応じて商品が欲しくなります。

説得する時の中心ルートと周辺ルートの使い分け方

あなたが相手を説得する場合は、相手にとっての重要度と興味を持っているかどうかで、中心ルートと周辺ルートの使い分けができます。

単純に言えば、次の3とおりの説得ルートがあります。

相手が興味・知識を持っているか相手にとっての重要度アプローチするルート
持っている高い中心ルート
持っていない低い周辺ルート
持っていない高い周辺ルート ⇒ 中心ルート

中心ルートのアプローチ

相手がすでに興味を持っていて、相手にとって重要度が高い説得をする場合は、中心ルートでの説得が効果的です。

例えば、あなたがマンションを販売していて、物件について問い合わせがあった場合は、ポジティブな情報はもちろん、ネガティブな情報も含めて、客観的な事実やデータを相手に提示するようにします。

もしもデメリットを隠したまま説得しようとしたなら、あっという間に隠していることがバレて、信用を失ってしまいます。なぜなら、相手はマンション購入について真剣に考えているので、マンションについての知識をある程度持っているからです。

逆に、説得相手がすでに興味を持っている段階なのに、周辺ルートで説得しようとした場合は、相手は「もどかしい」と感じてしまうかもしれません。

検討のための判断材料がほしいのに、

  • 「こちらの街は、住みたいランキングにも入るほど人気で・・・」
  • 「外観の色合いがオシャレですよね・・・」

なんて説明をされても、「そんなのはわかってるから!」って感じてしまいますよね。

周辺ルートのアプローチ

相手にとって重要度が低い説得の場合は、周辺ルートでのアプローチが効果的です。

相手を説得するためには、直感的に判断ができるような良いイメージを提示するようにします。

もしも相手が説得内容について興味がない状態なのに、あらゆるデータを提示した場合には、興味を持って話を聞いてくれなくなります。なぜなら、相手に知識がない場合は、良し悪しの判断ができないので退屈な説明になってしまうからです。

例えば、鉄道に興味がない友達を鉄道撮影に連れて行きたい場合、友達に「オレが撮りたい223系2000番はVVVFインバータが搭載されていて、最高速度が130kmあるんだよね。で、1000番台にあったビートがなくなってるんだけど・・・」と、鉄道の詳しい話をしても引かれてしまいますよね。

それよりも、先ほど紹介した6つの説得方法を使って

  • 先に相手の趣味に付き合ってあげる
  • 鉄道と一緒に撮る風景の美しさを写真で見せる
  • 鉄道撮影が今、人気であることを告げる

といったことをした方が、鉄道撮影に興味を持ってもらいやすくなります。

周辺ルート ⇒ 中心ルートのアプローチ

相手にとって重要度が高いけど、まだ興味を持っていない説得の場合は、周辺ルートから中心ルートをたどるアプローチが効果的です。

例えば、マンション販売のような重要度の高い説得をするにしても、相手がまだ興味を持っていない状態であれば、周辺ルートのアプローチから入るようにします。

  • 有名人による宣伝
  • 部屋や外観の綺麗さを写真で見せる
  • 街の人気度を示す
  • 口コミ評価を示す

といったことをします。

そして、相手が説得メッセージに興味を持ったなら、中心ルートをたどるようにして、

  • 内装で使っている材料のデータ
  • マンションの構造・耐震データ
  • 地域の行政情報
  • マンションの価格

など、判断材料となる客観的なデータを提示するようにします。

例えば、友達に鉄道を好きになってもらいたければ、周辺ルートで鉄道に興味を持ってもらってから、その後で鉄道のいろんな話をするようにします。

周辺ルートだけではなく、中心ルートをたどって説得に応じた場合には、長期間にわたって鉄道を好きになってもらえるということですね。

ビジネスに置き換えてみれば、リピーターやファンになってくれるということです。

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まとめ

人は説得的コミュニケーションを受けた際には、中心ルートと周辺ルートの2つの思考パターンをたどって態度が変化します。

このプロセスを表したものを、精緻化見込みモデルと言います。

  • 中心ルート:動機(興味)や知識がある場合、論理的に意思決定をする
  • 周辺ルート:動機(興味)や知識がない場合、直感的に意思決定をする

脳は周辺ルートをたどるヒューリスティックでの思考パターンを好みますが、自分にとって重要であると判断した場合には、中心ルートをたどって慎重に意思決定をします。

説得する内容や相手の状態によって、提示するモノや順番を使い分けることが、うまく相手を説得するコツです。

中心ルートをたどって態度が変われば、長く態度が変わらない傾向があります。ですので、リピーターやファンをつくるためには、最終的には中心ルートでの説得を重視するようにしてみてください。

さらに説得力を高める方法を知りたい場合は、こちらを参考にしてください。
説得力を高める16の秘訣|心理テクニックでYESを引き出す方法

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  • この記事を書いた人

高木浩一

心理学と脳科学が好きなマーケティング・Web集客の専門家/解脱しかけのゲダツニスト/ 大企業のマジメな広告デザインから男性を欲情させるアダルティな広告デザインまで、幅広い分野を経験した元グラフィックデザイナー。心理面をカバーしたマーケティングとデザインの両方の視点をもつ。個人が個人として活躍する時代に向けて「使えるマーケティング」をモットーに情報発信中。

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