人に何かをしてもらったら、お返しをしないと申し訳ない気持ちになりますよね。このような心理作用を、返報性の原理(返報性の法則)と言います。
老若男女、国籍を問わず、人が本能的に持っている普遍的な現象です。
例えば、ごはんをご馳走になったら何かお礼をしようと感じますし、Facebookで「いいね!」をもらったら、お返しに「いいね!」をしたくなります。このような自然に湧き起こる感情が返報性です。
この記事では、返報性の原理を解説します。
普段は無意識レベルでしているからこそ、返報性を意識すれば人づき合いやビジネスにおいて強力な力を働かせることができます。周りの人はあなたを好きになって、お客さんはあなたから商品を買いたくなる力です。
返報性の原理を理解して、“人に好かれる極意” を手に入れてください。
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返報性の原理 (返報性の法則)とは
返報性の原理は、社会心理学者のロバート・B・チャルディーニ氏の著書『影響力の武器』で紹介されたことでも有名な心理効果です。
人は恩を受けたら、恩を返したくなります。自分だけが恩を受けた状態は、気持ち悪い気がします。もしもお返しをしなければ、「恩知らず」などと社会集団から嫌われる可能性さえあります。
それほど強力なのが、返報性の原理です。
日本では、「人に何かしてもらったらお礼をしなさい」という教育を受けた人がほとんどだと思います。ですので、受け取った恩を、時には受け取った以上の恩で返したいと感じるのは、ごく自然な心理現象だと言えます。
返報性の種類
返報性の原理には、次のような種類があります。
- 好意の返報性:こちらが好意を見せれば、相手もこちらに好意を示してくれる
- 敵意の返報性:こちらが敵意を見せれば、相手もこちらに敵意を示す
- 譲歩の返報性:こちらが相手に譲歩すれば、相手もこちらに譲歩してくれる
- 自己開示の返報性:こちらが自己開示をしたら、相手も同じ程度の自己開示をしてくれる
たとえ「返報性の原理」という言葉を知らなかったとしても、恋愛や人間関係では、これらの返報性はきっと無意識でしていますよね。
笑顔で話しかけられれば自然と笑顔で返事したくなりますし、しかめっ面で話しかけられれば、警戒した状態で答えてしまうと思います。
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身近な好意の返報性
身近な返報性の原理と言えば、バレンタインのイベントが思い浮かびます。
チョコレートをもらったら、お返しをしなきゃ悪い気持ちになりますよね。たとえ義理だと知っていても、「好意」を受け取った以上は「好意」を返そうと感じます。
また、観光地で写真を撮ってもらいたい時には、同じ観光客にこちらから「よければ写真を撮りましょうか?」と声をかければ、大抵は「こちらも写真を撮りますよ」とお返ししてくれますよね。
こちらから先に好意を見せることで、好意のお返しをしてもらえます。
好意の返報性がわかる微笑ましい動画
好意の返報性がわかる、思わず微笑んでしまう心温まる動画をご紹介します。
2分ほどのこちらの動画では、小さな女の子が手を振ることで、通りすがりの人も笑顔で手を振り返してくれる様子が伺えます。(何度見ても癒される動画です)
「手を振ってくれたから、手を振り返す」
小さな女の子がカワイイからという理由もあると思いますが、これが返報性の原理です。
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好意の返報性の実験
心理学者のデニス・リーガン氏が行なった、返報性の実験があります。
「美術鑑賞」という名目の実験に参加した大学生に、もう一人の参加者Aさん(リーガン氏のサクラ)と一緒に、いくつかの絵画の作品評価をしてもらいます。本当の実験は、途中の休憩時間に行われるAさんの2つの行動の違いで、その後大学生にどのような変化があるのかを比べるものです。
- ケース1:Aさんは休憩時間に少し部屋から出ていき、コーラを2本買って帰ってくる。「君の分も買ってきたよ」と言って1本を大学生に渡し、小さな親切をする。
- ケース2:Aさんは休憩時間に少し部屋から出て行くが、手ぶらで帰ってくる。何も親切はしない。
全ての絵画の品評が終わった後で、Aさんは大学生に「自分は新車が当たるくじ付きチケットを売っているんだけど、何枚でもいいから買ってくれないか?」と、お願いをします。
返報性は借りがあると感じることで起こる
チケットを購入した枚数を調べたところ、親切をされた大学生は、Aさんに対して明らかに借りがあると感じていて、何もされなかった大学生の2倍もチケットを購入したのでした。
金額で比較すると、もらったコーラの5倍ほどのチケットを買ったことになります。
この実験では、Aさんに対する好感度とチケット購入の関係性も調べました。その結果は、親切にされたこととは無関係で、Aさんに対する好感度が高いほど、チケットを買った枚数が多いことがわかりました。
好意的な人に、より親切にしたいという思いは特に驚くことではないですよね。
ところが・・・
返報性は好感度が低くても効果がある
この実験でわかった恐ろしいことは、「親切にされた大学生は、好感度とは関係なくチケットを購入した」ということです。購入した枚数も、好感度に関係なく同じくらいでした。
つまり、「借りがある」と感じた場合は、好き嫌いに関わらず「借りを返さなければ」という義務感が働くということです。
返報性は、非常に強い原理であることがわかります。
マーケティングで使う好意の返報性
好意の返報性を使った代表的なマーケティングは、「無料お試し」です。
例えば、スーパーマーケットでの試食は、返報性の原理を利用したマーケティング手法だと言えます。「無料で食べさせてもらった」という借りを感じたとしら、たとえ欲しいと思っていなかった商品でも、「美味しかったし、まぁいっか・・・」と買ってしまいやすくなるんですね。
「送料無料で返品オッケー」という、一見すると企業が損するようなサービスや、服屋さんでの「試着」も返報性の原理が働きます。「何度もお試しして、丁寧な接客をしてくれたんだから、何か買わないと悪いなぁ・・・」という気持ちになりますよね。
好意を与えれば要求がとおる?
返報性の原理をマーケティングに悪用すれば、たとえ迷惑だと思われているセールス勧誘であったとしても、お客さんに有無を言わせず親切にしてプレゼント攻撃すれば、その後の要求が通りやすくなるということになります。
昔、新聞の勧誘がこの手法を使っていましたよね。「洗剤をプレゼント、野球の観戦チケットをプレゼントするから、新聞を取ってくれませんか?」という攻撃です。
恋愛に置き換えるなら、プレゼント攻撃や親切にしまくれば、たとえ嫌われていたとしても、義務感からデートの誘いに乗ってくれるということです。
めちゃくちゃ恐ろしい原理ですよね。
ですが、こんなことを本当にしたとしてもビジネスでは長続きしません。なぜなら、いずれ好意を受け取る前に避けられるようになるからです。新聞の勧誘は、身分がわかった時点で門前払いされて終わりです。
恋愛の場合でも、連絡すら避けられて終わりです。
好意を受け取らないようにするのは、無意識で「一貫性の原理」が働かないようにするためです。
「返報性の原理」と似ている「一貫性の原理」とは
一貫性の原理とは、自分の発言や態度に矛盾が起こらないように、一貫した行動を取り続けようとする心理作用のことを言います。
例えば、スーパーマーケットの試食の場面では、「店員さんに勧められて食べた(Yes)」という行動に矛盾しないように、「店員さんに勧められた商品を購入する(Yes)」という一貫性を持たせた行動をしようとする心理が無意識で働きます。
そのため、断るのが苦手な人は一貫性の原理が働かないように、あらかじめ好意を受け取らない選択をします。
このように、相手が求めていない状況でのプレゼント攻撃や、積極的な試食や購入を促した場合は、「返報性の原理」ではなくて「一貫性の原理」が働くことになります。
譲歩の返報性を使った「ドア・イン・ザ・フェイス」
返報性の原理の中で、譲歩の返報性を使った有名な交渉術に「ドア・イン・ザ・フェイス」があります。普通に交渉した場合に比べると、3倍近くも成功率が高くなる交渉術です。
その方法は、まずはじめに断られそうなハードルの高い要求をします。相手は断りますが、断ったことに対して少なからず罪悪感を抱きます。そこで、最初に提示した要求よりもハードルを下げた要求(本来したい要求)をして譲歩します。
すると相手も譲歩してくれて、要求が通りやすくなるというテクニックです。
ドア・イン・ザ・フェイスの会話例
A:「この仕事、できれば明日までに仕上げてほしいのですが?」(←無理めな要求)
B:「いや、明日まではちょっと・・・」
A:「じゃあ、明後日までならどうですか?」(←本来の要求)
B:「明後日までなら・・・何とかします」
正しい返報性の原理の使い方
好意の返報性で大切なことは、好意の見返りを求めないことです。
なぜなら、「試食したんだから買ってよね」という態度を店員さんが取ったとしたら、たとえ返報性が働いたとしても詐欺行為に取られてしまい、不信感を与えてしまうからですね。
Webマーケティングに必須のフリー戦略にしたって、「無料プレゼントを受け取る代わりに、商品を購入してくださいね!」という匂いをプンプンさせてしまっては、プレゼントを受け取ってくれなくなります。
返報性は、好意を与えた本人から直接返ってくる場合もあれば、回り回って、違う人から返ってくる場合もあります。
それが口コミ効果です。これは、好意の見返りを求めないことで生まれます。
人に好かれたいなら、ギブ&ギブ&ギブ
人に好かれたいと思ったなら、まず先にこちらから好意を与えることが大切です。「ギブ&テイク」という言葉にしたって、「ギブ:与える」から始まっていますよね。
ただし、好意のお返しが欲しいからと「テイク:取る」を強要しては、返報性はうまく働きません。正しく返報性の原理を使うなら、ギブ&ギブ&ギブの精神が大切です。
見返りを求めず、与えて、与えて、与えることが、結果的に好かれることにつながるんですね。
まとめ
返報性の原理とは、「受けた恩は返したい」という、社会生活の中で培われた本能的な心理作用です。与えた好意が特別であるほど、受けた側は感謝の度合いが大きくなります。
マーケティングでは、好意の返報性や譲歩の返報性がよく使われています。ただし、好意の返報性を使ったマーケティングの本質は、見返りを求めないことです。
人に好かれたい場合も同様に、「ギブ&テイク」を求めるのではなく、「ギブ&ギブ&ギブ」の精神が大切です。
マーケティングに使える心理学では、返報性の原理と同じくらい強力なのが「一貫性の原理」です。
次の記事では、人にとって大きな影響力がある「一貫性の原理」の解説をしています。
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