顧客心理を掴む心理学

プロスペクト理論とは?マーケティングに応用する損失回避の法則

2016-10-09

プロスペクト理論

1万円を手に入れる喜びと、1万円を失うショック。どちらも同じ1万円なのに、多くの人は「失う1万円」の方がはるかに大きな出来事に感じます。

このような心理傾向の理論を、行動経済学では「プロスペクト理論」と言います。

人がお金を扱う時には、誰もが確実に得をしたいと感じ、損をするリスクはできるだけ避けたいと感じます。それなのに、0.000005%ほどの当選を夢見て、宝クジを買ったりします。

一見、矛盾しているように感じるこの人間の心理は、プロスペクト理論を学ぶことでわかるようになります。

投資では損をしない心理を手に入れることに役立ちますし、マーケティングに応用すれば、お客さんの購買意欲を2倍以上に高めることに役立ちます。

マーケティングには欠かせないプロスペクト理論と、コピーライティングの使い方について、ぜひ覚えておいてください。

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プロスペクト理論 とは

プロスペクト理論(Prospect theory)とは、人は利益を得る場面では「確実に手に入れること」を優先し、反対に、損失を被る場面では「最大限に回避すること」を優先する傾向があるという行動心理を表した理論です。

簡単に言うと、「人は得をするよりも、損をしたくない思いの方が強い」という理論です。

このプロスペクト理論は、心理学者であり行動経済学者のダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)氏と、心理学者のエイモス・トヴェルスキー(Amos Tversky)氏によって、1979年に提唱されました。

プロスペクト(Prospect)は、「期待・予想・見通し」といった意味があります。

ダニエル・カーネマン氏はこのプロスペクト理論で、2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。(エイモス・トヴェルスキー氏は1996年に他界)

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プロスペクト理論の実験例

プロスペクト理論がよくわかる実験があります。

次のような2つのくじがあったとしたら、あなたはどちらを選びますか?

  • A:90万円もらえる 確率は100%
  • B:100万円もらえる 確率は90%

このくじの場合、ほとんどの人がAのくじを選びます。

確実に90万円がもらえるなら、そりゃもらいたいと思いますよね。たとえ100万円をもらえる可能性があったとしても、まったくもらえない10%のリスクは負いたくないと感じます。

ですが、期待値はどちらも90万円であることに注目しておいてください。

期待値とは、手に入る見込みの金額を平均値で表したものです。Bの条件では、100万円が90%の確率で手に入るので、期待値は90万円となります。

では、次のような場合はどうでしょうか?

確実に損をする可能性があるくじを引かなければいけません。あなたはどちらを選びますか?

  • A:90万円を失う 確率は100%
  • B:100万円を失う 確率は90%

この条件の場合は、多くの人がBのくじを選びます。

こちらの期待値はどちらも-90万円です。

期待値は先ほどと同じく同額なのに、損失を目の前にしている場合では、確実に90万円を失うよりも、100万円を失うリスクを負ってでも、まったく損をしない10%の確率に望みをかけたいと感じるんですね。

これらのことから、「利益」を得られる場面では、利益を逃すリスク(=損失)を回避して、「損失」を被る場面では、リスクを負ってでも損失を最大限に回避する傾向があることがわかります。

このような行動は「損失回避バイアス」や「損失回避性」と呼ばれています。

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プロスペクト理論をギャンブルに例えると

プロスペクト理論をギャンブルに例えるなら、始めは倍率が低くても勝てる確率の高い勝負をします。小さな倍率でも、確実に勝ちたいという心理が働きます。

ですが、やがて予想外に負けが込み始めたとします。

すると、今度は小さくコツコツ勝てる勝負をするのではなく、倍率の高い勝負をするようになります。一刻も早く、負けた分を一気に取り返そうとする心理が働きます。

人は損した気分からは、一刻も早く逃れたい性質を持っているんですね。

損失回避バイアスが生まれる背景

損失回避バイアスが生まれる背景は、太古の時代にまでさかのぼります。

太古の人たちは、苦労して獲った獲物(食料)を長期保存しておくことができませんでした。いつ食料となる獲物が取れるかもわからない状況では、獲得した食料は生きるために一番大切なものでした。絶対に守らなければいけないものであり、失うことは死に直結する恐怖でした。

そのため、利益を獲得する可能性よりも、確実に損失を回避することの方が大事に感じるように脳にインプットされている、と考えられています。

プロスペクト理論の二大柱「価値関数」と「確率加重関数」

プロスペクト理論は、「価値関数」と「確率加重関数」の2つの柱からなる理論です。

価値関数では、同じ大きさなら、利益よりも損失の方が重大に感じることがわかります。なぜ人は行動できないのか? なぜ借金が膨れ上がるのか? という理由がわかります。

確率加重関数では、発生する確立が高ければリスクを回避して、確率が低ければリスクを追求することがわかります。なぜ人は宝クジを買うのか? なぜ癌の発症よりも飛行機事故の方を心配してしまうのか? という理由がわかります。

まずは、価値関数から解説していきます。

価値関数:利益よりも損失の方が重大に感じる

実際の価値(客観的数値)と心理的な価値(主観的数値)の関係性について、カーネマン氏は実験を行いました。例えば、次のような選択を被験者にしてもらいます。

  • A:80%の確率で4,000ドルをもらう
  • B:100%の確率で3,000ドルをもらう

Aの期待値は(80%×4,000=)3,200ドルですが、ほとんどの人が、期待値が3,000ドルのBを選びました。このような実験を重ねることで、次のような価値関数が導き出されました。

プロスペクト理論の価値関数

プロスペクト理論の価値関数

この価値関数グラフでは、例えば1万円(客観的数値)を得する心理的な価値(主観的数値)は、2.5万円を損する心理的な価値と同等であることを示しています。

感じる得と損の比率は、およそ 1:2〜2.5 だと言われています。

つまり損得の比率でいうと、次のような選択になった時に、意見が同数になるということです。

  • A:100%の確率で1万円をもらう
  • B:50%の確率で4万円をもらう

感応度逓減性:金額が大きくなると損得の感覚は小さくなる

またこの価値関数グラフでは、人は扱う金額が大きくなると、損得の感覚は小さくなっていくことも表しています。これを感応度逓減性(かんのうどていげんせい)と言います。

効用逓減曲線

効用逓減曲線

例えば、A店で見かけた5000円で販売している商品が、近所にあるB店では3000円で販売しているとわかった場合、多くの人はB店で購入しようと思います。

「2000円も違うなんて、大損じゃないか!」と感じますよね。

ところが、A店では19万5000円、B店では19万3000円で販売している商品の場合は、わざわざB店で購入しようと思う人は少なくなります。

「2000円くらい、別に変わらなくない?」と感じてしまいます。

どちらも同じ2000円なんですが、扱う金額が大きくなることで、損得の感覚は麻痺していくんですね。借金が膨れ上がる理由も、借金の額が増えるごとに感覚が麻痺していくことが考えられます。

価値関数での投資の心理

価値関数を投資で例えるなら、1000万円を投資して1100万円に増える喜びよりも、900万円に減るショックの方がはるかに大きく感じるということですね。

さらに損失が増えて800万円になったとしたら、900万円に減った時よりもショックが小さくなるということです。損失を小さく感じてしまうことや、投資案件を手放した時点で損が確定してしまうことを重大に感じやすいので、損切りできずにそのまま何もしない “塩漬け” をすることにもつながります。

人は成功よりも失敗を重大に感じますから、なにかアクションを起こして失敗する危険を恐れて、何もしないでいることの方が安全な気分になりやすいんですね。

確率加重関数:確率によってリスクの感じ方が変わる

プロスペクト理論のもうひとつの柱である確率加重関数では、確率の違いによってリスクを回避したり、リスクを追求することがわかります。

プロスペクト理論の確率加重関数

プロスペクト理論の確率加重関数

この確率加重関数グラフでは、人の主観的な判断は35%を境に確率の感じ方が変わる様子を示しています。つまり、人は確率を主観的に感じやすく、35%以下の確率は高く見積もり、35%以上の確率は低く見積もる傾向があるということです。

例えば、「90%の確率で成功する手術」があるとします。客観的に見れば、90%という数値は90%以外の何者でもありません。ですが、主観的には74%の確率に感じてしまうんですね。

お医者さんから「90%の確率で成功しますよ」と手術を勧められたとしても、ちょっと怖く感じてしまうということです。

表現の違いで感じ方を変える方法は「フレーミング効果とは?文章を変えるだけで売上アップする行動経済学」の記事で解説しています。

ですので、「100万円をもらえる確率が90%」だとしても、心理的には低く感じやすく、確実にリスクを回避できる選択肢を選ぶんですね。一方の「100万円を失う確率が90%」の場合も、「失わない10%の確率」が心理的には高く感じるので、リスクを追求しやすくなるというわけです。

当選確率が恐ろしく低い宝クジを買ってしまうのも、実際の確率よりも高く見積もってしまうためだったんですね。日本人の死亡理由が1位の癌よりも、発生率が0.0009%の飛行機事故を心配してしまうのもこのためです。

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マーケティングに応用するプロスペクト理論の参照点依存性

プロスペクト理論の価値関数

プロスペクト理論の価値関数

人はモノの価値を判断する時、プロスペクト理論の価値関数グラフにある「参照点(参照価格)」を基準にして相対的に感じ方が変わります。

これを参照点依存性と言います。

商品・サービスの価格を考える際には、この参照点依存性を使うことができます。

「高い・安い」の基準になる参照点(参照価格)

消費者には一人一人、それぞれの経験や知識、いろんな条件の違いによって「この商品は、だいたいこれくらいの価格が妥当だろう」という基準になる参照点(参照価格)を心の中に持っています。

一般的によく知られている商品・サービスであれば、明確な参照価格になりますし、よく知らない商品・サービスであれば、参照価格はぼんやりしたものになります。

例えば、あなたがよく喫茶店へ行くのなら、『コーヒー』の価格は大体の想像がつくと思います。明確な参照価格を持っていれば、「高い・安い」の判断がしやすいですよね。

普段500円のコーヒーを飲んでいるとしたら、400円のコーヒーは安く感じますし、600円のコーヒーなら高く感じると思います。

反対に、普段『家事代行サービス』を利用しないとしたら、どの程度の価格なのかを想像しにくく、「高い・安い」の判断もしにくいと思います。

例えば、1時間5000円の家事代行サービスは高いでしょうか? 安いでしょうか?

参照点(参照価格)が基準になって損得の感覚が生まれる

この参照点(参照価格)を基準に、損得の感覚が生まれます。

例えば、セールなどで一時的に価格を下げた場合は、消費者は「いつもより安く買えるので得をした!」という、心理的価値がプラスに働きます。

ところが、セールが終わって価格が元に戻ると、消費者の心理的価値は2〜2.5倍のマイナスに感じてしまいます。つまり、「元の値段で買うのは大きな損をする!」という気持ちが生まれます。

マクドナルドが安売りを繰り返し行ったことで、売れ行きが悪くなったというのは有名な話ですよね。安売りを繰り返したことで、多くの人の参照価格が下がってしまったということです。

価格の決め方と紹介の仕方

ですので、よく知られている商品のセールを行う場合は、消費者の参照価格が低く変わらないようにコントロールすることが大切です。むやみやたらにセールをするのではなく、正当な理由がある限定性を設けると良いですね。

新しい商品や、内容がわかりにくいような商品の価格を決定する際には、商品・サービスの品質に見合った適切な参照価格を、消費者の頭の中につくる必要があります。

つまり、商品価格を高く設定したければ、価格に見合った価値であることを、消費者に十分に説明する必要があるということです。

参照価格を移動させる

商品・サービスを「お得」に感じてもらうためには、消費者が抱いている参照価格を移動させるようにします。

例え

こちらの家事代行サービスの調理部門では、一流ホテルで料理長を務めたシェフによる、栄養バランスを考慮した創作料理を堪能していただけます。わずか1時間で、5日分の料理を作り置きいたします。

清掃部門では、中華料理店やホテルの清掃も任されるプロが、わずか1時間であなたのお宅を隅々までキレイにいたします。

それぞれのサービスを個別にご依頼される場合は通常1時間8000円ですが、一度にご依頼いただいた場合は、合わせて1時間5000円です。

1時間5000円の家事代行サービスを「安い」と感じませんでしたか?

もしも安いと感じたなら、商品説明を受けたことで、「参照価格」が5000円よりも高くなったためです。

コピーライティングで応用するプロスペクト理論

“人は得をする喜びよりも、損をする痛みの方が2〜2.5倍ほど大きく感じる” というプロスペクト理論をコピーライティングに応用するためには、「損失回避バイアス」を刺激するコピーを考えます。

「この商品を買えば得しますよ」というアピールだけではなく、「この商品を買わなければ損しますよ」というアピールも同時にします。

フィア・アピール(恐怖のアピール)

損失回避バイアスを刺激するために、まずは読み手に、恐怖や不安という「損失」の危険をアピールします。そして、どうすればその恐怖を取り除くことができるのか、「回避」の方法を提案します。

「このまま放っておくと、こんな最悪な結果が待っていますよ」というやつですね。ただし、人は恐怖の度合いが大きくなると、その恐怖から目を背けて無視する傾向があります。

ですので、フィア・アピールを使うときは、小さな不安を与えて、その不安を完全に取り除ける提案をすることが大切です。

なにより嫌な気分にさせてしまっては、コピーを読むのも嫌にさせてしまいます。

希少性のアピール

魅力のあるオファーを得る機会を失うことは、読み手にとっての「損失」になります。そこで、読み手の損失回避バイアスを刺激するために、「このオファーを受けられるチャンスは今回しかない」という希少性のアピールをします。

ただし、希少性には正当な理由が必要です。

理由もなく、ただただ「残り10個 ⇒ 残り3個です!」と表示したり、「残り23時間59分59秒・・・」とカウントダウンをして煽っても胡散臭いだけです。本当に希少性がある理由を提示することが大切です。

リスクリバーサル

買い手のリスクを売り手が負ってあげることを、「リスクリバーサル」と言います。

商品の価格が高くなればなるほど、お客さんは「お金を失う恐怖」と「商品から得られる利益」を慎重に天秤にかけるようになります。

この時、ほんの少しでも「お金を失う恐怖」が上回れば、商品を買ってくれることはありません。

プロスペクト理論による損失回避バイアスに陥らないようするには、読み手の恐怖を取り除く提案をします。「どう転んでも私は損しないよな?」と思ってもらうようにするんですね。

例えば、

  • 「全額返金保証」
  • 「◯日間無料お試し」
  • 「成果が出るまで保証」

といったリスクリバーサルを考えます。

▼売る商品より大事なもの▼ウェブセールスライティング習得ハンドブックcp-b

まとめ

プロスペクト理論とは、「人は得をするよりも、損をしたくない思いの方が強い」という行動経済学の理論です。その比率は、得を1とした場合、損は2〜2.5とも言われています。

「損したくない」という気持ちは、「一度所持したものを失いたくない」という気持ちも生み出します。これは保有効果と言います。人はとにかく、「損したくない!失いたくない!」という気持ちが強いんですね。

ですので商品を紹介する際には、得をするアピールだけではなく、損をするアピールも同時にしてみてください。お客さんの購入意欲が高まりやすくなります。

また、お客さんの判断は表現方法の違いだけでも変わります。プロスペクト理論にも含まれるフレーミング効果を知っておくと、より効果的なメッセージづくりに役立ちます。

さらに心理学をマーケティングに応用する方法は、こちらを参考にしてください。

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高木浩一

心理学と脳科学が好きなマーケティング・Web集客の専門家/解脱しかけのゲダツニスト/ 大企業のマジメな広告デザインから男性を欲情させるアダルティな広告デザインまで、幅広い分野を経験した元グラフィックデザイナー。心理面をカバーしたマーケティングとデザインの両方の視点をもつ。個人が個人として活躍する時代に向けて「使えるマーケティング」をモットーに情報発信中。

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