顧客心理を掴む心理学

アンカリング効果とは?ウソでも商品価値を上げる悪用厳禁の行動経済学

行動経済学で有名なアンカリング効果とは、最初に提示された特徴や数値が基準点となって、その後の意思決定や判断に影響を及ぼす心理傾向のことです。

簡単に言うと「最初に見る数字や印象が基準点になる」という心理現象です。

まずは実際に行われたアンカリング効果の実験をしますので、ちょっと考えてみてください。

ここに一冊の古い本があります。第一印象でかまいませんが、この本は10,000円よりも高いと思いますか? それとも安いと思いますか?

アンカリング効果の実験

・・・では、この本はいくらぐらいだと思いましたか? あなたが考えた価格に近いものを選んでみてください。

  • A:12,500円
  • B:7,500円
  • C:2,500円

あなたが考えた価格に近かったのは「B」、もしくは「A」ではないですか? もしもそうなら、その判断は質問に仕掛けられたアンカリング効果のトリックによるものです。

この記事では、アンカリング効果のマーケティングやコピーライティングの応用についてお話しします。たとえウソでも商品価値が上がってしまう、悪用厳禁の内容です。

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アンカリング効果とは

アンカリング効果(anchoring effect)は、1974年に『サイエンス誌』で、プロスペクト理論で有名な行動経済学者のダニエル・カーネマン氏(Daniel Kahneman)と心理学者のエイモス・トヴェルスキー氏(Amos Tversky)の論文によって発表されました。

無関係なはずの要素に影響を受けて、物事を評価してしまう「認知バイアス」のひとつです。

アンカリング効果の語源と解説

アンカリング効果の「アンカー」とは、船の錨(いかり)のことです。船はアンカーを海底に降ろすことで、アンカーでつながっている範囲から離れられなくなります。

人の判断力も同じで、最初に提示された特徴や数値がアンカー(基準点)になることで、思考がアンカーの影響から離れられなくなることを例えています。

この記事の冒頭で実験した本の質問では、「10,000円」という数値を最初に提示しました。そのため「10,000円」がアンカー(基準点)となって、価格を考える際は10,000円に影響された価格を考えやすくなったということです。

なので、もしも最初にした質問が、「この本は1,000円よりも高いと思いますか? それとも安いと思いますか?」だったとしたら、あなたが考えた本の価格は「C:2,500円」に近くなったと思います。

基準点はプライミング効果によって起こる

最初に提示された数値や印象が基準点になるのは、プライミング効果によるものです。

プライミング効果とは、先に受けた知覚が後の知覚に影響を与える現象のことです。僕たちの脳は何か刺激を受けると、脳内に蓄積された関連性のあるモノを無意識で思い出しやすくなる特性があります。

プライミング効果がわかりやすいのは、10回クイズです。「みりん」を10回言ったあとに、「鼻の長い動物といえば?」と聞かれると、「みりん」に影響を受けて「キリン」と答えやすくなります。

アンカリング効果も、無意識で起こるプライミング効果によって、最初に受け取る情報が影響を与えてしまうんですね。

アンカリング効果の実験例

もうひとつ、アンカリング効果がわかる実験例をご紹介します。ある被験者グループには、つぎの計算問題の答えを、5秒以内で推測してもらいました。

8 × 7 × 6 × 5 × 4 × 3 × 2 × 1 =?

実験結果では、推測した答えの中央値は「2,250」でした。

別の被験者グループには、つぎの計算問題の答えを、同じように5秒以内で推測してもらいました。

1 × 2 × 3 × 4 × 5 × 6 × 7 × 8 =?

こちらの実験結果では、推測した答えの中央値は「512」でした。

両方の問題を見ればわかるとおり、正解はどちらも同じです。ちなみに正解は「40,320」です。ですが推測した答えの差は、大きく異なりました。

これは、最初に目にする数字の大きさがアンカーとなって、推測値に影響を与えたということです。パッと見では、「8×7×6・・・」の方が、「1×2×3・・・」よりも大きな数値になりそうに感じますもんね。

身近なアンカリング効果の事例

身近に使われているアンカリング効果の例でいうと、不動産屋が物件を紹介する時のテクニックがあります。

これから不動産屋の紹介で物件を内見するときに、3件続けて回るときは注意してくみてださい。もしかしたら、不動産屋が思惑どおりに契約させるためのシナリオかもしれません。

まず1番目に見る物件は、「ちょっと手が出ないかなぁ」と悩むような家賃の高い綺麗な物件です。2番目に見る物件は、「本当に私の希望を聞いてた?」と疑いたくなるような汚い物件を見せられます。そして最後に見る3番目の物件は、唯一条件に当てはまった、そこそこの物件です。

この順番が、知覚のアンカリング効果を使った順番です。

3番目の物件だけを見たとしたら、「まぁまぁかなぁ。でも他の物件も見てみて・・・」と、あまり乗り気がしないかもしれません。ところが、1番目に見た物件の家賃がアンカーとなり、2番目に見る汚い物件とのコントラスト効果によって、3番目に見るそこそこの物件でも、すごくいい物件に見えるようになってしまいます。

コントラスト効果とは、対象を比較する際に、通常よりも大きな差に感じる心理現象です。

そして、3つの中からどれかを選ぶときには、真ん中のモノを選びやすくなる、極端の回避性(松竹梅の法則)という心理効果も手伝っています。

価格表示のアンカリング

もっとも多くアンカリング効果を目にするのは、何か商品を購入するときに見る価格表示です。

実際に購入できる価格の近くに、わざわざ「参考価格」とか「希望小売価格」といった表記とともに、打ち消し線で元の価格が書いてあったりします。

「参考価格:56,000円 ⇒ 価格:42,000円」

といった感じです。すごく馴染みがあるのではないでしょうか。

アンカリング効果がある価格表示

アンカリング効果がある価格表示

これは、実際に購入できる価格よりも大きな価格を提示しておくことで、大きい価格がアンカーとなって、小さい価格を「安い」と感じる効果があります。

実際に払う金額は変わらないのに、アンカーがあることで、僕たちは「見えない差額」で得をしたと感じてしまいます。

アンカリング効果がない価格表示

アンカリング効果がない価格表示

アンカリング効果がない価格表示と見比べてみると、どうしても「得した」ような気になってしまいますよね。「その参考価格が本当かどうかもわからないのに」です。

それほど、アンカリング効果は強力な心理効果だと言えます。

マーケティングでのアンカリング効果の使い方

アンカリング効果をマーケティングに活かすには、先ほどの例えのように、元々「10,000円」の商品でも、隣りに「希望小売価格20,000円」と、打ち消し線を入れておくことで、「安い」と感じてもらうことができます。

ただし、このようなアンカリング効果が有効なのは、相場がわからないような商品・サービスの場合です。一般に知れ渡っているような商品なら、調べれば市場価格の相場はすぐにわかります。

アンカリングを悪用したケース

アンカリング効果を悪用して失敗した、こんなケースがあります。

ある野球チームが優勝した時に「優勝記念セール」と称して、10個入りのお菓子の通常価格を12,000円として、77%引きの2,760円で販売したECサイトがありました。一見すると、大幅値下げですごく得したような気がしますよね。ですが、こんなことをしても消費者は騙されませんでした。

なぜなら、消費者にはそれぞれ「この商品ならこれくらいの値段だろう」という判断基準(参照価格と言います)を持っているからです。普通に考えたら、10個入りのお菓子が12,000円なんて、ちょっと考えられないですよね。

そのため、相場がわかるような商品にウソをついた価格表示でアンカリング効果を使っても「元の値段がこんなに高いわけないだろう」と、すぐに見破られます。当然、「優勝記念セール」を行ったECサイトも問題になりました。

このような、不当に通常価格を引き上げて、アンカリング効果を狙った価格表示は「二重価格表示」と呼ばれ、景品表示法に反しています。

二重価格表示の基本的な考え方や具体例は、消費者庁のホームページで確認してみてください。
⇒ 消費者庁/表示対策

オーダーしやすいメニュー表の見せ方

「最初に目にする数字が印象に残る」ということを利用すれば、メニュー表の見せ方にも応用できます。

例えば、レストランのドリンクメニュー表では、一番高い飲み物を一番上に記載して、下に行くほど安い飲み物を記載します。10万円のワインが一番高いドリンクだったとしたら、10万円のワインを一番上に記載しておきます。すると、一番下に記載した1000円の飲み物でも、安く感じる効果があります。

反対に、安さを売りにした居酒屋のドリンクメニュー表では、一番安い飲み物を一番上に記載します。そうすることで、「総額は安いだろう」という心理が働いて、何度もドリンクをオーダーしてもらいやすくなります。

アンカリング効果の実験例のように、「1×2×3・・・」という小さな数字を最初に見ることで、合計しても「8×7×6・・・」よりも小さな数値になりそうに感じるということですね。

コピーライティングでのアンカリング効果の使い方

価格表示以外でアンカリング効果を使うには、コピーライティングで商品の価値を引き上げるようにします。

例えば、3万9800円の自転車を販売するために、価格表示でアンカリング効果を使えば、

「希望小売価格75,000円 ⇒ 39,800円」

と表示することで、安いと感じてもらうことはできます。

ですが、「自転車の相場って、2万円くらいかなぁ」と考えている人の場合は、3万9800円でも高く感じますよね。そこで、コピーライティングで商品の価値を引き上げ、「この自転車なら3万9800円でも安い」と感じてもらうようにします。

例えば、つぎのような説明を加えます。

この自転車には、800万円を超える高級車にも採用されている最新技術が使われています。そのため、当初は25万円での販売が予定されていました。ですが、できるだけ多くの人に乗ってもらいたい思いから、7万5000円での発売となりました。今回はさらに特別価格でのご提供になります。
希望小売価格75,000円 ⇒ 39,800円

このように、最初に800万円や25万円という大きな数字を見せてアンカーにすることで、この自転車の価値が上がるようにします。基準点(アンカー)が移動すれば、3万9800円でも安いと感じるようにできます。

アンカリング効果を使うときの注意点

ただし大きな数字を出す時は、本当の数字である必要があります。商品に関わる大きな数字を探し出して、コピーライティングにうまく取り入れます。

すでにお分かりのとおり、ウソをついて大きな数字を出した場合は、結局は消費者にバレて大きく信用を失ってしまいます。

単位を揃えなくても効果がある

「安い」と感じてもらうために使う大きな数字は、値段である必要はありません。たとえ単位が違っても、「大きな数字」を最初に見ることでアンカーになります。

例えばこんな実験がありました。

「100」「1,000」「10,000」と書いてあるカードのくじを一枚引いてもらい、その後ボールペンの価格を予想してもらったところ、小さな数字を引いた人は低い価格を予想する傾向がありました。一方の大きな数字を引いた人は高い価格を予想する傾向がありました。

さらにボールペンの品質について評価してもらったところ、小さな数字を引いた人は「書き味が悪い、安っぽい」といった意見があり、大きな数字を引いた人は「高級感がある、手が疲れにくい」といった意見がありました。

この実験からわかるとおり、商品とは直接関係のない数字を見るだけでも、その後の評価も変わってしまうんですね。

まとめ

アンカリング効果とは、「最初に見る数字や印象が、その後の判断に影響を与える」という心理現象です。ウソをついても効果がある、絶対に悪用してほしくない行動経済学です。

マーケティングに応用するには、売りたい価格よりも大きな数字を最初に見せることで、相対的に「安く」感じてもらうことができます。数字は価格に関するものである必要はありません。

あなたの商品・サービスの価値を上げるには、商品にまつわる大きな数字を探し出して、コピーライティングに取り入れてみてください。

さらに心理学をマーケティングに応用する方法は、こちらを参考にしてください。
行動心理学で顧客心理を掴む!マーケティングテクニック【36選】

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