時間とともに信用度が変わる現象を、心理学ではスリーパー効果と言います。嘘だと思っていた話でも、時間が経つと信じてしまう心理現象です。
例えば、ワイドショーで見かけた芸能人の噂話。最初は「どうもウソっぽいよなぁ」と感じたネタなのに、いつの間にか「実はありえる話なんじゃ・・・?」と信じてしまうようなことです。
この記事では、
- スリーパー効果とは何か?
- 信用のメカニズム
- スリーパー効果のマーケティングでの使い方
- スリーパー効果の恋愛での使い方
について解説します。
「鳴かぬなら、鳴くまで待とうホトトギス」の心理学とも言えるスリーパー効果を知って、マーケティングや恋愛で、じわじわとあなたの影響力を強めるために役立ててください。
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スリーパー効果 とは
スリーパー効果(Sleeper effect)は、時間の経過とともに『情報の内容』と『情報源』が分離されて、『情報の内容』だけが記憶に残るという心理現象です。
『情報源』の信用性が『情報の内容』よりも先に忘れられてしまう(=眠る)という意味から、スリーパー効果と名付けられました。「仮眠効果」「居眠り効果」とも呼ばれます。
スリーパー効果の例え
例えば、都市伝説としてバラエティ番組で「富士山が10年以内に80%の確率で噴火する」という情報を見たとします。
その番組では専門家の説明もなく、特に気にも留めなかったのですが、しばらく経った時には「富士山が近々、高確率で噴火するらしい」という情報だけが頭に残ります。
バラエティ番組が情報源だということを忘れて、「富士山が近々噴火する」という情報だけが記憶に残ることで不安になることがあるんですね。
これがスリーパー効果です。
スリーパー効果は説得の専門家が提唱
このスリーパー効果は、アメリカの心理学者で行動変化と説得の専門家であるカール・ホブランド(Carl Iver Hovland)氏によって提唱されました。
1940年代の第二次世界大戦中に、プロパガンダ映画『Why We Fight(なぜ我々は戦うのか)』が実際に効果があるのかを調べた結果、映画を観た直後には効果がなかったものの、約9週間後に効果が認められたことから導き出されました。
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スリーパー効果の実験
時間の経過で信用度が変わるスリーパー効果は、1951年にホブランド氏とジャニス氏が行った実験で証明されています。
実験内容
「抗ヒスタミン剤(アレルギーを抑える薬)は、医者の処方がなくても販売されるべきか」といった題材の賛否記事について、被験者である学生には自分の意見とは反対の記事を読ませました。
- 賛成意見の学生 ⇒ 否定的な記事を読ませる
- 反対意見の学生 ⇒ 賛成的な記事を読ませる
そしてグループを2つに分けて、読ませた記事の情報源の説明をしました。
- Aグループ:信用性の高いもの(生物医学雑誌など)と説明
- Bグループ:信用性の低いもの(大衆月刊誌など)と説明
この結果、信用性の高い情報源だと説明されたAグループの学生は、23%が自分の意見を変えました。一方の信用性の低い情報源だと説明されたBグループの学生は、7%しか意見を変えませんでした。
つまり、信用性の高い情報源の記事は信用しやすく、信用性の低い情報源の記事は信用しにくいという結果です。
これはなんとなく分かりますよね。
1ヶ月で情報源の記憶は薄れる
ところが実験の4週間後にもう一度、意見が変わったかどうかを尋ねると、2つの記事の信用度の差はほとんどなくなっていたのでした。
- はじめに信用度が低いと感じた情報 ⇒ 時間とともに信用度が上がった
- はじめに信用度が高いと感じた情報 ⇒ 時間とともに信用度が下がった
実験から4週間経ったことで、記事の内容と情報源の信用性が分離したと考えられる結果です。
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スリーパー効果が起こるメカニズム
スリーパー効果が起こるメカニズムはこうです。
ある情報を信じるかどうかの判断は、まずはその内容よりも情報源の信用度が重要になります。なぜなら、脳は時間をかけて理屈で処理をするよりも、感情で素早く処理をしたがるからです。
つまり、『情報の内容』を吟味して判断するのではなく、まずは『情報源』を「信用できそうか・できないか」「好きか・嫌いか」で判断しやすい傾向があるんですね。
例えば、あなたがもっとも信用するAさんが、「3ヶ月後にX社の株価が大暴落するよ」と言えば、「へぇ、そうなんだ!」と信じやすくなると思います。「Aさんが言うんだから、間違いはないだろう」という気持ちになります。
Aさんが株に詳しいなら、なおさらです。
一方で、信用していないBさんが同じ内容を言った場合には、「それって本当? Bさんのことだから、どうせ適当なことを言ってるんじゃない?」と、信用できないと感じます。
はじめは『情報源』の信用度が重視される
数値化して例えるなら、『情報の内容』の信用度が【5】、『情報源』であるAさんの信用度が【9】だとしたら、Aさんの信用度【9】の力が勝って、『情報の内容』まで信用度が【9】になります。
一方で、信用度が【1】のBさんが同じことを言った場合は、信用度【1】の力が勝って「そんな話、信じられないよ」と、『情報の内容』まで信用度が【1】になります。
時間の経過で『情報の内容』だけが記憶に残る
ところが時間が経つと、『情報源』についての記憶が薄れて、『情報の内容』だけが頭に残ります。
『情報の内容』と『情報源』が分離されて、『情報の内容』だけが記憶に残ることで、信用度【1】だったBさんの話は信用度が【5】に戻り、「あの話って、本当かも・・・」と信じやすくなります。
反対に、信用度【9】のAさんが言った情報は、時間とともに信用度が【5】に戻り、「あの話って信用できるのかな?」と、疑うようになります。
つまりスリーパー効果とは、時間が経つことで情報の本来の信用度に戻るという現象なんですね。
「ワイドショーのネタだからなぁ・・・」という理由で疑っていた情報は、時間が経つことで、やがて自分の情報として処理されます。
自分の持っている他のいろんな情報と混ざり合うことで、「あの芸能人って前例があったし、今回のは本当かもな」というように信用度が変わるんですね。
スリーパー効果をマーケティングに応用するには
これらのスリーパー効果からわかることは、人を説得するにはまず、発信する人物が魅力的で、専門家であることが大切だということです。
情報が正確そうで、信用に足る人物であれば、説得しやすくなります。これはアリストテレスの弁論術でいうところの「エートス」にあたります。
例えば、同じ内容をプレゼンするなら、会社に入りたての新入社員が説明するのではなく、上役が説明した方が説得力が増すということです。
そしていくら説得力がある人でも、たった一度しか説得しなければ、その効果は1ヶ月ほどでなくなります。発信する人物(会社)の信頼性が低い場合は、すぐに説得しようとするのではなく、1ヵ月ほど時間をかけてじっくり説得すると良いことがわかります。
説得するには時間をかけて接触頻度を増やすこと
ですので、小さな会社や個人ビジネスの場合は、はじめから信用されることを考えずに、時間をかけて信頼を獲得することが良いと言えます。
そのためのマーケティング戦略としては、WebサイトやSNS、メールマガジンなどでお客さんとの接触回数を増やして、信頼度を少しずつ高めるようにします。
これはザイオンス効果と呼ばれる心理作用です。
ブログ記事を書いたり、コンテンツマーケティングに取り組めば、時間をかけてお客さんの信用度を高めることができます。
スリーパー効果を恋愛に応用するには
スリーパー効果を恋愛に応用するには、「押してもダメなら引いてみろ」の戦略として使えます。
何度も「好きだ!」と言ってるのに信用してもらえない場合には、しばらく期間をおくことで信用してもらえる可能性が高まります。
あるいは、好きな人が学校や会社など同じ組織にいるのであれば、好きな気持ちを人づてで相手へ伝わるようにしておけば、時間が経てば信じてもらいやすくなるということですね。
合コンや恋愛アプリで知り合った場合は、会った初日に好意を伝えるのが効果的だと分かります。最初は戸惑わせてしまう可能性がありますが、時間とともに信憑性が上がる可能性もあるということです。
まとめ
スリーパー効果とは、時間とともに『情報の内容』と『情報源』が分離されて、『情報の内容』だけが記憶に残るという現象です。
信じられる情報かどうかは、はじめは『情報の内容』ではなく、『情報源』に依存します。
相手の価値観を変えるような説得をするには、すぐに答えを求めるのではなく時間をおくことが必要です。なぜなら、自分とは違う意見をすぐに受け入れることに、敗北感や屈辱感を味わう人もいるからです。
ですので、時間をかけてじっくりと説得するのが効果的なんですね。
自分に信用がない状態でのセールスの場面では、一度だけのアタックで引き下がらずに、時間を置いて再度アタックしてみれば、スリーパー効果で成約できる可能性が上がります。
スリーパー効果で信用度を上げるためには、『情報源』が分離された後でも信用度が上がるように、質の高い情報発信を心がけてみてください。
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