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現在バイアスとは?行動経済学でわかる先延ばし癖のカラクリと防ぎ方

2019-02-15

現在バイアス

多くの人は、未来の大きな利益の可能性よりも、目の前にある小さな利益の現実を重視する傾向があります。

このような心理傾向を、行動経済学では「現在バイアス」と言います。

この心理傾向は、先延ばしをしたがる心理とも言えます。

現在バイアス傾向が強い人は、本当に必要な事柄を後回しにしてしまいがちなため、掲げた目標を達成できずに失敗する可能性が高くなります。

また、目の前の欲求に弱いので、貯金をしにくく、自己投資にも失敗しやすく、人生をダメにしてしまう可能性さえあります。

もしも、あなたが目標達成をしにくいと感じている場合は、自分が現在バイアス傾向が強いかどうかを自覚して、人生の教訓に役立ててください。現在バイアスの存在を知ることで、克服する方法を考えることができます。

さらにこの現在バイアスは、マーケティングに応用することができます。あなたがマーケティングに携わっているのなら、どのようにしてお客さんのハートを掴めるのかを確認してみてください。

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現在バイアス(現在志向バイアス)とは

現在バイアス(Present bias)とは、目の前にある事柄を過大に評価してしまう心理傾向のことです。未来にある喜びよりも、目の前にある喜びを優先してしまう心理です。「現在性バイアス」「現在志向バイアス」とも呼ばれます。

この心理傾向は、行動経済学の第一人者でもあるダニエル・カーネマン氏によって提唱されました。

現在バイアスは、被験者に次のような選択をしてもらうことで明らかになりました。

あなたはどちらを選びますか?

  • 今すぐもらえる10万円
  • 一週間後にもらえる10万1000円

合理的に考えれば、「一週間後にもらえる10万1000円」を選択した方が得策です。銀行に預けたって金利は年間で0.1%ほどですから、一週間待てば1%も増えるなんて得でしかありません。

ところが実際は、「今すぐもらえる10万円」を選択する人が出てきます。

「今すぐ10万円があれば今すぐ◯◯ができる!だから早く欲しい!」という考え方自体は、別に間違いではありません。従来の経済学でも、そういう人がいるのも当然だと考えてきました。

ですが行動経済学によって明らかになったことは、人は時間の経過によって選択の順番が変わるということです。この先延ばし癖の心理の解明は、従来の経済学ではわからなかった人間心理です。

経済学では、人の選択は「時間が経っても変わらない」と考える

従来の経済学では、人が何かを選択する時には「いつでも同じ選択をする」と定義してきました。

ですので、「今すぐもらえる10万円」を選択する人がいたとしたら

  • 一年後にもらえる10万円
  • 一年と一週間後にもらえる10万1000円

このような選択肢に変わったとしても、その人の答えは「一年後にもらえる10万円」になるはずだと考えていました。

つまり、一週間でも早くお金が欲しい人は、一年後の出来事を想像しても、一週間でも早くお金を欲しいはずだろうと考えてきたんですね。

行動経済学では、人の選択は「時間の経過によって変わる」と考える

ところが実際の多くの被験者は、「今すぐもらえる10万円」を選んだとしても、一年後の選択肢では、「一年と一週間後にもらえる10万1000円」を選ぶ傾向にあります。

《今すぐ or 一週間後》の選択肢の場合は一週間も待てなかったのに、一年後を想像すると、一週間は我慢できるという答えに変わるんですね。

このように、人間の心理を取り入れた行動経済学の研究によって、「人は時間の経過によって選択する順番が変わる」ことが明らかになったのでした。

この “感情に左右される” 人間ならではの「時間による選好の逆転」が、先延ばしの心理を生み出します。

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先延ばしを生む現在バイアスの身近な例え

身近な先延ばしといえば、ダイエットや試験勉強などが思い浮かぶのではないでしょうか?

例えば、「3ヶ月後に5kg痩せるぞ!」と目標を掲げたのに、3ヶ月後はまだまだ遠い未来だと感じて「今日はサボっちゃおう・・・。明日から頑張れば大丈夫!」と、目の前にある “楽すること” を選んでダイエットを先延ばしにするケースです。

これが現在バイアスです。

勉強の場合も、「今日はどうしても見たいテレビがあるんだよなぁ・・・。今日の勉強時間は、明日や明後日に追加すれば大丈夫!」と考える現在バイアスがあります。

このようなケースも、結局は次の日も “目の前にある欲求” の方を重大に感じて勉強できずに、どんどん理想の勉強時間から遠ざかってしまうことになります。

つまり、未来を考えた時には自分にとって正しい選択ができるのに、その選択が目の前に迫ると間違った方を選んでしまうというわけです。

重大に感じる目の前の欲望に勝てるかどうかで、目標達成できるかどうかが左右されるんですね。

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我慢できるかどうかで人生が変わることがわかるマシュマロ実験

マシュマロ・テスト

現在バイアスで人生が左右することは、マシュマロ実験でも明らかになっています。

マシュマロ実験とは、スタンフォード大学の心理学者ウォルター・ミシェル(Walter Mischel)氏が、1960年代後半から1970年代前半にかけて実施した「子ども時代の自制心と将来の社会的成果の関連性」を調査した一連の実験です。

マシュマロ・テストの内容

小さな部屋に入ってもらった4歳ほどの子どもの目の前に、マシュマロを一つ置きます。

そして監督者が「このマシュマロを食べてもいいけど、私が少し部屋から出て行って戻ってくるまでに食べるのを我慢したら、ご褒美にもう一つマシュマロをあげるよ」と告げて、15分〜20分ほど部屋を出ます。

つまり被験者である子どもには、次の選択をしてもらいます。

  • 今すぐマシュマロを一つもらう
  • 数十分後にマシュマロを二つもらう

合理的に考えれば、我慢してマシュマロを二つもらうのが正解です。ですが実験結果は、約2/3の子どもが我慢できずにマシュマロを食べてしまったのでした。

そして十数年後、実験に参加した子どもたちの追跡調査が行われました。

忍耐強いと人生が成功しやすくなる

追跡調査では、我慢できずに食べてしまった子どもたちは、対人関係が上手くいかず、ストレスに弱く、自分に自信が持てない青年になっている傾向が見られました。

一方で、我慢できた子どもたちは、成績優秀でストレスに強く、自分に自信のある青年に成長している傾向があったのでした。

この実験から、人間の発達においては、自己の感情を抑えることが人生の成功につながるカギであるとされています。

今が大切かどうかは時間割引率でわかる

目の前の出来事を重大に感じやすいかどうかは、時間割引率でわかります。時間割引率とは、時間による価値の低下の割合のことを言います。

多くの人は、もらえる報酬が同じなら、未来にもらえる報酬ほど価値を低く感じる傾向があります。

時間割引

時間割引

例えば、今すぐもらえるはずの10万円を「一週間待ってくれたら、少し上乗せするよ」と提案されたとしたら、いくらの上乗せで待つことができますか?

1000円を上乗せしてもらって一週間後に10万1000円を受け取るとしたら、「今すぐもらう10万円」と「一週間後の10万1000円」は、心理的に同等の価値があるということになります。

時間割引率

時間割引率

言い換えれば、今すぐ10万円を受け取ることは、一週間でお金の価値を1%ほど割り引いたとも言えるわけです。

時間割引率の計算

1000円(割り引いた額)÷ 10万1000円(報酬額)× 100 = 0.99%

時間によって割り引かれる価値の度合い、これが時間割引率です。

「せっかちな人=時間割引率が高い」「我慢強い人=時間割引率が低い」

もしも「一週間待つのなら2万円上乗せしてほしい」と考えたとしたら、今すぐもらうお金の価値は一週間で16%ほど割り引いたことになります。

行動経済学では、時間割引率の高い人を『せっかちな人』と言います。「今の価値」と「将来の価値」を天秤にかけた時に、感じる価値の差が大きいということです。

つまり、「今の価値」をより重大に感じるということですね。

時間割引率の高い人は、体重や借金が多く、運動量や貯金は少なく、給料の安い仕事につきやすく、離婚率が高いというデータもあります。

そして時間割引率の低い人ほど、『我慢強い人』ということになります。

現在バイアスによって起こる「時間選好の逆転」のカラクリ

“目の前の欲求が重大に感じる” 現在バイアスをグラフで表すと、下図のような双曲線になります。このような双曲線を双曲割引と言います。

双曲割引(現在バイアス)

双曲割引(現在バイアス)の図

こちらの双曲割引のグラフでは、目の前の欲求に弱いせっかちな人は、《今すぐ or 一週間後》の選択の場合では、心理的な価値の差が大きく違うことがわかります。(上図の左側にある矢印の範囲の大きさの違い)

ですので「今すぐ」を選ぶんですね。

ところが、《一年後 or 一年と一週間後》の選択では、心理的な価値の差がほとんどなくなっています。ですので、未来の一週間の違いには「より得をする方」を合理的に選ぶことができるんですね。

一方で、マシュマロを二つもらうような我慢強い人は、「今すぐ」と「一週間後」の心理的な価値の差が少ないんですね。ですので、目の前の欲求を我慢できるということになります。

割引率が一定(直線)であることを「指数割引」と言いますが、我慢強い人は双曲線が一定に近い「指数型割引」であると言えるんですね。

先延ばしはなぜ起こる?

ダイエットや試験勉強など、自分にとって重大な目標から得られる報酬は、心理的な価値が高いはずです。テレビを見ることよりも試験勉強が大事なことは、十分理解しているはずなんですよね。

それなのに、ついつい目の前の小さな欲求に負けて先延ばしをしてしまうのは、現在バイアスによって、下図のように目の前に迫った欲求の方が価値が高いように感じてしまうからです。

先延ばしの様子

先延ばしの様子

目の前の出来事は大きく見える

先延ばしの様子を例えるなら、隣同士に並んだ木と盆栽を遠くから眺めれば、大きさの違いをはっきりと確認することができますよね。(下図左)

ですが、盆栽だけを目の前に近づけてみると、盆栽が大きく見えて、遠くにある木が盆栽よりも小さく見えてしまうのと似ています。(下図右)

目の前の小さな欲求の方が大きく見える例え

目の前の小さな欲求の方が大きく見える例え

期限が遠くにある分には、テレビよりも試験勉強の方が重要なことはわかっているはずなのに、テレビの時間が間近に近づいてくることで、テレビの重要性が大きく感じてしまうんですね。

コストと報酬に時間差があるから先延ばしをする

また、先延ばしの原因は、コストと報酬に時間差があることも考えられます。

例えば、3ヶ月後の試験に向けて勉強をすることは、「勉強」というコストを積み重ねても、「合格」という報酬に変わるまでには3ヶ月かかります。しかも未確定の報酬です。

それに比べて「テレビを見て楽しむ」というような報酬は、「テレビを見る」というコストだけで今すぐ確実にもらうことができます。ですので、ついつい目の前の小さな報酬に負けてしまいやすくなるんですね。

先延ばしをするのは爬虫類脳・哺乳類脳重視が原因?

現在バイアスでの目の前の報酬とは、短絡的な欲求が多いのではないでしょうか?

  • 今までどおりラクをすること
  • おいしいケーキを食べて満足すること
  • テレビを見て楽しい気分になること

このような短絡的な欲求は、僕たち人間の脳に存在する「爬虫類脳・哺乳類脳」の影響力が強く働いていることが考えられます。

『脳の三位一体論』という仮説によると、未来的な思考をする「人間脳(新しい脳)」は、目の前の短絡的な欲求を求める「爬虫類脳・哺乳類脳(古い脳)」の影響力に負けやすいとされています。

古い脳と新しい脳の力関係

古い脳と新しい脳の力関係

考えてみれば、太古の人間は一年後に生きている保証などはありませんでした。食糧難に陥るかもしれませんし、獣に襲われるかもしれません。ですから「いま現在」を大切に感じるのは、当たり前のことだったんですよね。

現代に生きる人間も、本質は同じです。

あなたは一年後、五年後、十年後、病気や事故に遭わずに健康的な日常を送れるという保証がありますか? きっと誰もが保証なんてないですよね。

ですので、未来を変えるためのダイエットや試験勉強のような長期目標は、そもそも目の前の短絡的な欲求に負けやすい傾向があるんですね。

現在バイアスや先延ばし癖は、このような脳の仕組みから生まれるとも考えられます。

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現在バイアスに打ち勝ち、先延ばしをなくす4つの方法

現在バイアス傾向が強い人は、目の前の欲求には一生勝てないのかというと、勿論そういうわけではありません。

マシュマロ実験で目の前の欲求に負けた子どもでも、成長過程で我慢ができる青年に成長した例はあります。

ここでは、先延ばしをなくす簡単な方法を紹介します。

  1. 目の前の欲求から目をそらす
  2. 現在バイアスを想定して対策しておく
  3. 本来の目標の報酬を思い出す
  4. 目標のための行動を習慣化する

1. 目の前の欲求から目をそらす

先延ばし癖を防ぐ1つめの方法は、目の前の欲求は目に入らないようにすることです。現在バイアスを防ぐもっとも簡単な方法です。

マシュマロ実験では、マシュマロを触ったり、匂いをかいだりした子どもたちは我慢ができない傾向がありました。一方で、目をそらして見ないようにしたり、マシュマロを隠す子どもたちは我慢ができる傾向がありました。

ですので、例えばダイエットの目標達成をしたいとしたら、ケーキや甘いモノは見たり触れたりしないようにすることが大切なんですね。

2. 現在バイアスを想定して対策しておく

先延ばし癖を防ぐ2つめの方法は、現在バイアスに陥った時にどうするのかをあらかじめ準備しておくことです。

現在バイアスによって目の前の欲求を重大に感じてしまうこと自体は、防ぎようがありません。

ですので、例えばダイエットを目標にしているのに、ついつい目の前のステーキやハンバーグを食べたいと感じた時には、「ガムを噛むようにする」など、あらかじめ対策を立てて準備しておくようにします。

どんな欲求に陥りそうなのかを想定して対策を準備しておけば、現在バイアスを回避することに役立ちます。

3. 本来の目標の報酬を思い出す

先延ばし癖を防ぐ3つめの方法は、目標から得られる報酬と目の前の欲求から得られる報酬を常に比べることです。

本来の長期的な目標と目の前の短絡的な欲求を冷静に比べれば、本来の目標から得られる報酬の方が心理的な価値は高いはずですよね。

ですので、例えば試験勉強の予定時間に面白そうなテレビがあったとしたら、試験を合格した時に得られる報酬と、テレビを見ることで得られる一時的な報酬は、どちらの喜びが大きいかを考えてみるようにします。

そうすることで、選好の逆転は起こりにくくなるはずです。

小さな欲求に打ち勝てたなら、小さなご褒美を準備するのも良いですね。

4. 目標のための行動を習慣化する

先延ばし癖を防ぐ4つめの方法は、目標のための行動を習慣化することです。現在バイアスを防ぐもっとも重要な方法です。

習慣にさえしてしまえば、何も考えなくても行動のスイッチを入れることができるんですね。ただし、新しい行動を習慣化するためには平均で66日ほどかかるという研究があります。

ですのでその間は、目標のための行動と現在すでに習慣化されている行動をリンクさせるように心がけます。

例えば、試験勉強をするためには、部屋に入って電気をつけた次の行動で「机の前に座って本を開く」ようにします。何かの行動のすぐ後に新しい行動を追加すれば、習慣化しやすくできます。

マーケティングに応用する現在バイアス

“今すぐ” を重大に感じる現在バイアスをマーケティングに応用することで、商品・サービスを買ってもらいやすくすることができます。

その方法は至って簡単です。

お客さんには、「今すぐ使えます・今すぐ結果が出ます」というアピールをすることです。

  • 使ったその日から効果が実感できます
  • お申し込みの当日から使えるサービスです
  • クレジット決済で即ダウンロードできます

また、人は支払いは先延ばしにしたいと考え、未来のコストの合計を理解できない傾向があります。このような心理傾向は、メンタルアカウンティングと言います。

ですので、クレジット払いや分割払いを薦めることでも、商品を買うハードルを下げてもらうことができます。

とは言え、クレジット払いやローンを組むことは身の破滅を招きかねませんので、取り扱いには十分に気をつけることも大切ですね。

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まとめ

行動経済学の現在バイアスとは、未来の不確かな報酬よりも、目の前の確かな報酬を重大に感じる心理傾向のことです。

この現在バイアスは、先延ばしの心理とも言えます。

もしもあなたが先延ばしをする癖があったとしたら、現在バイアス傾向が強かどうかを認識した上で対策を立てるようにしてみてください。

先延ばしとは衝動ですので、完全になくすことはできません。

それでも、時間割引率が高い傾向にあるかどうかを自覚するだけでも、行動は随分と変わるはずです。マジックはタネがわからなければ不思議な現象に感じますが、タネさえ知れば騙されにくくなるのと同じですね。

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  • この記事を書いた人

高木浩一

心理学と脳科学が好きなマーケティング・Web集客の専門家/解脱しかけのゲダツニスト/ 大企業のマジメな広告デザインから男性を欲情させるアダルティな広告デザインまで、幅広い分野を経験した元グラフィックデザイナー。心理面をカバーしたマーケティングとデザインの両方の視点をもつ。個人が個人として活躍する時代に向けて「使えるマーケティング」をモットーに情報発信中。

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