顧客心理を掴む心理学

保有効果とは?マーケティングで使う、失う恐怖と現状維持バイアス

2017-03-06

保有効果

人は自分が所有したモノに対しては突然価値が上がり、手放したくない気持ちを抱く傾向があります。このような心理現象を、行動経済学では保有効果と言います。

「もったいない・・・」という気持ちから、なかなかモノが捨てられなかったり、長年愛用したモノを手放したくない気持ちは、この保有効果によるものです。

きっと誰だって経験がありますよね。

この記事では、

  • 保有効果とは何か?
  • なぜ保有効果が起こるのか?
  • 身の回りの保有効果をなくす方法
  • 保有効果をマーケティングに応用する方法

について解説します。

マーケティングに応用できれば、お客さんを安心させる販売ができると同時に、あなたのビジネスは売上アップを図れるようになります。

保有効果の理解を深めて、私生活やマーケティングに役立ててください。

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保有効果とは

保有効果(Endowment effect)とは、自分が所有しているモノに高い価値を感じて、それを手放すことに抵抗を感じてしまう心理現象です。「授かり効果」とも呼ばれます。

1970年代初めに、当時ロチェスター大学の大学院生だった経済学者のリチャード・H・セイラー(Richard H. Thaler)氏によって提唱されました。

この保有効果は、正規の取引ではないモノに顕著に現れる傾向があります。

保有効果の例え

例えば、あなたは大好きなアーティストのライブチケットを手に入れたとします。3万円までなら払っても良いと思っていたところ、運良く正規料金の8000円で手に入れることができたチケットです。

その後チケットは完売になり、オークションサイトでは「8万円払うから欲しい!」という熱狂的なファンがいることがわかりました。

さて、あなたはいくらならチケットを売っても良いと考えますか?

8000円で手に入れたチケットですから、8000円で売ればあなたに損はありません。ですが、8万円以下では売りたくない気持ちになるのではないでしょうか。

入手前は最大3万円までなら払っても良いと感じていた価値なのに、実際に手に入れたことで、チケットの価値が8万円以上に変わったことになります。

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保有効果の実験

行動経済学者のダニエル・カーネマン氏が行った、保有効果がわかる実験があります。

被験者の学生をランダムにAとBの2つのグループに分けて、Aグループには大学のロゴ入りマグカップをプレゼントします。

プレゼントした後すぐに、Aグループには「いくらなら、Bグループにマグカップを売るか?」と尋ね、もらわなかったBグループには「いくらなら、Aグループからマグカップを買うか?」と尋ねます。

通常のマグカップは6ドルで販売しているものでしたが、その結果は平均すると次のようになりました。

  • Aグループ:7.12ドルで売る
  • Bグループ:2.87ドルで買う

たった今手に入れたものなのに、手に入れていない状態と比べると、感じる価値は2倍以上の差が出たのでした。

なぜ、このような保有効果は起こるのでしょうか?

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保有効果が起こる理由

「手に入れたモノの価値が高くなる」という保有効果が起こる理由は、3つ考えられます。

  1. 自分が持っているモノに愛着を感じる
  2. 自分が感じる価値は、他人も同じように感じるだろうと考える
  3. 手に入れるよりも、失うかもしれないことを重要に感じる

1. 自分が持っているモノに愛着を感じる

保有効果が起こるのは、「自分が持ってるモノに愛着を感じる」ことが考えられます。

例えば、あなたには長年愛用している腕時計があるとします。見た目は少しボロくなってしまいましたが、あなたが必死になって働いて手に入れたもので、たくさんの思い出がつまっている腕時計です。

その腕時計と同じ新品と交換できるとしたら、あなたは交換しますか?

おそらく、ボロくなった腕時計に特別な思いを感じて、簡単には手放せないのではないでしょうか。腕時計についた傷ですら、あなたにとっては人生を共にした思い出であり、愛着を感じるからですよね。

人は同じモノに何度も接することで、好感を抱く傾向があります。

このような心理作用をザイオンス効果と呼びます。手放したくないと感じる理由は、このザイオンス効果が考えられます。

2. 自分が感じる価値は、他人も同じように感じるだろうと考える

保有効果が起こるのは、「他人も自分と同じ感覚のはず」と感じやすいことが考えられます。

もしも腕時計を手放すとしたら、思い出がつまっている分、買った値段と同じくらいの値段か、あるいはそれ以上の値段をつけたくなるかもしれません。

なぜなら、他人からすれば腕時計についた傷はマイナス評価でしかないのですが、説明さえすれば他人にも思い出の価値が伝わると感じてしまうからです。

人は無意識のうちに、「他人も自分と同じように考えるはず」と思い込んでしまう傾向があります。このような心理作用を、心理学ではフォールス・コンセンサス効果と呼びます。

自分が感じる高い価値が他人にも伝わると思ってしまうのは、このような心理作用が考えられます。

3. 手に入れるよりも、失うかもしれないことを重要に感じる

保有効果が起こるのは、「手に入れるよりも失う方が重大な出来事に感じる」ことが考えられます。また、手に入れた状態を維持したい心理が働くことも考えられます。

これらは保有効果が起こる、一番大きな理由です。

人は新しく手に入れるモノよりも、失うモノの方が大きな損失に感じる傾向があります。この心理傾向を示した理論を、プロスペクト理論と呼びます。

現状を維持したいと感じる心理傾向は、現状維持バイアスと呼びます。

このプロスペクト理論と現状維持バイアスは、マーケティングを考える際にとても重要になる理論です。

保有効果を生むプロスペクト理論とは

行動経済学で使われるプロスペクト理論とは、「人は新しいものを手にした時に得られるメリットよりも、所有しているものを失うデメリットの方に注意が働き、できるだけ損失を避けたいと感じる傾向がある」という心理傾向を示した理論です。

感じる損得の比率は、得を「1」とした場合、損は「2〜2.5」とも言われています。先ほど紹介したマグカップの実験結果で出た2倍以上の値段の差は、偶然にもプロスペクト理論と一致します。

つまり、マグカップを手に入れた瞬間の嬉しい気持ちが「1」だとすると、それを失う悲しい気持ちは「2〜2.5」倍に感じるんですね。

プロスペクト理論については「プロスペクト理論とは?マーケティングに応用する損失回避の法則」の記事で詳しく解説しています。

そして、得と損が同等だった場合は、現状維持バイアスがかかります。

現状維持バイアスとは

現状維持バイアスとは、現状を変えることにるデメリットの方が、現状を変えないことよりも大きいと感じ、現状を維持しようとする思考パターンのことです。

例えば、あなたが D社の携帯電話を持っていて、D社よりも A社の方が価格が安いとします。

A社に乗り換えた方が経済的なのですが、「手続きが面倒・・・」「電波状況が悪くなるかもしれない・・・」などと、現状を変えることで起こりそうなデメリットの方が大きく感じてしまいます。そして、D社を使い続ける現状維持を選択します。

これが現状維持バイアスです。

プロスペクト理論で考えれば、損を「1」とした場合、得が「2〜2.5」以上なければ、現状を変えようとはしません。

ギャンブルで例えるなら、1万円をかけて1万円をもらう勝負はしようとは思わず、1万円をかけて2.5万円以上をもらえるなら、勝負しようと思えます。

この現状維持バイアスを考えれば、携帯電話や保険サービスなど、新しく商品を乗り換えてもらうためには、乗り換えることによる大きなアドバンテージを用意する必要があることがわかります。

逆に言えば、マーケティングは一番乗りすることが、もっとも簡単な方法だということですね。

身の回りの保有効果をなくす方法

保有効果を理解すれば、身の回りで起こる保有効果をなくす方法が思いつきます。

例えば、もう着ない洋服なのに「もったいない気がする・・・」と感じて、なかなか捨てられない場合。

この場合にもっとも簡単に保有効果をなくす方法は、見えないようにすることです。

いつまでも手放せないのは、目につきやすい場所に保管しているからです。いつでも手に取れるタンスに保管していれば、ザイオンス効果によって愛着を感じやすく、プロスペクト理論や現状維持バイアスによって「捨てるのは損する・・・」と感じてしまうんですね。

ですので、「もう必要ないかな?」と思った時点でゴミ袋に入れて、保管場所を移動させます。保管場所を移動させるだけなので、心理的には「もったいない」という気持ちは起こりにくくなります。

すぐに目につかない押入れの奥などに保管すれば、そのうちザイオンス効果による愛着が薄れます。「もう捨てたモノ」という感覚になれば、現状維持バイアスもなくなります。

シーズンが外れた時に押入れから取り出して、保有効果がなくなっていれば、そのまま簡単に捨てることができます。

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マーケティングでの保有効果の使い方

“手にしたモノを失いたくない” 保有効果は、マーケティングでは頻繁に使われています。

もっともわかりやすいのは「返品保証」です。

お客さんからしてみれば、「使ってみて気に入らなければ返品できます」という保証は、安心して購入できるメリットになります。

売り手側のメリットとしては、返品保証は商品に対する自信に感じてもらいやすく、信頼感が生まれやすいことです。また、一度商品を手にしてもらうことで、保有効果によって商品の価値が上がるメリットもあります。

もしも、商品に少しの不満を抱いた場合でも、「返品の手続きが面倒だし、まぁいいか・・・」という現状維持バイアスが働きやすくなるんですね。

もちろん、商品に問題がある場合は返品の数は増えます。ですが、商品に大きな問題がない場合は、返品率よりも申し込み数の方が大きくなり、売上アップが期待できるというわけです。

保有効果は完全に手にしていなくても働く

保有効果は、まだお金を支払っていない状態でも、「試着」や「無料お試し」などで一度手にした状態になれば働きやすくなります。

そのため、一見企業側が損しそうに感じる「何度でもお試しオッケー」や「送料無料」などの条件でも、保有効果の返品率の低さによって利益を伸ばしているケースがあります。

これには、「何度もお試ししたのに、何も買わないのは申し訳ないなぁ・・・」と感じる返報性の原理も働きます。

保有効果に注意!

ですので、お客さんの立場になって考えてみれば、それほど欲しいとは思っていない状況で「とりあえずお試し」することは、買ってしまう可能性が高くなる行動だと言えるんですね。

もしも、お店側が「とりあえず試してみてください!」「手にとってみてください!」とゴリ押ししてきたなら、保有効果と返報性の原理を狙ったセールスかもしれないということです。

無駄遣いをしたくない場合は、むやみに商品に触れないことが賢明なんですね。

コピーライティングでの保有効果の使い方

“完全に手にしていなくても働く” 保有効果は、コピーライティングに応用することができます。

その方法は、すでに商品を使っている想像をしてもらうことで、お客さんの頭の中で保有効果をつくり出すようにします。

例えば次のような感じです。

あなたがこの自動掃除機を使っている姿を、ちょっと想像してみてください。

お申込みいただきますと、3日以内にご自宅に商品が届きます。充電された状態でお届けしますので、箱から商品を取り出したら、すぐにお使いいただけます。

操作方法は、自動掃除機を床に置いて赤いスタートボタンを「ポンッ」と押すだけです。あなたがすることは、もう何もありません。

後はのんびりソファに横たわって、挽きたてのコーヒーを飲みながら、忙しくて読めなかった小説でもゆっくり楽しんでください。その間に、勝手にお部屋がきれいになっています。

いかがですか? もうこの商品なしでの生活は、考えられないほど快適ですよね。

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まとめ

保有効果とは、自分が所有したモノに対しては価値が上がり、手放したくない思いを抱く心理現象です。

保有効果を生み出す大きな理由は、プロスペクト理論と現状維持バイアスが考えられます。

マーケティングでは「返品保証」「試着」「お試し」など、一度お客さんが手にする状態をつくることで、保有効果を働かせるようにできます。商品に問題がなければ返品率は低くなり、保証の安心感でお客さんからの申し込み数が増えやすくなります。

他社から商品を乗り換えてもらう場合は現状維持バイアスがかかっているので、乗り換えることで起こるメリットをたくさん用意する必要があります。

「もったいない・・・」と感じる人間心理をさらに知りたい場合は、コンコルド効果の記事も読んでみてください。
Next⇒「サンクコストとコンコルド効果|損失が拡大するもったいない心理とは

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  • この記事を書いた人

高木浩一

心理学と脳科学が好きなマーケティング・Web集客の専門家/解脱しかけのゲダツニスト/ 大企業のマジメな広告デザインから男性を欲情させるアダルティな広告デザインまで、幅広い分野を経験した元グラフィックデザイナー。心理面をカバーしたマーケティングとデザインの両方の視点をもつ。個人が個人として活躍する時代に向けて「使えるマーケティング」をモットーに情報発信中。

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