接触回数が増えるほど好印象を持つようになる心理現象を、心理学ではザイオンス効果(単純接触効果)と言います。
例えば、初めて会った時には「苦手なタイプかも・・・」と感じた人でも、何度となく接しているうちに「いつの間にか仲良くなっていた」という経験はありませんか?
このザイオンス効果は、恋愛の場面ではよく使われています。「マメな男性がモテる」という理論は、ザイオンス効果によるものですね。
この心理効果は、マーケティングにも応用できます。
ただしザイオンス効果を中途半端に覚えると、逆効果になる場合もあります。どんどん嫌わてしまう危険性もあるので、しっかりと理解しておきたい心理効果です。
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ザイオンス効果 (単純接触効果)とは
ザイオンス効果(Zajonc effect)とは、同じ人やモノに接する回数が増えるほど、しだいにその対象に対して好印象を持つようになる心理現象です。日本語では「単純接触効果」と呼ばれます。
好印象を持つ対象は人やモノだけではなく、味や匂い、音楽など、様々なものに対して起こります。
このザイオンス効果は、1968年にポーランド出身でアメリカの社会心理学者ロバート・ボレスワフ・ザイアンス(Robert Bolesław Zajonc)氏の論文によって発表されました。
「ザイアンスの法則」や「ザイアンス効果」と呼ばれますが、日本語では彼の名前をザイオンスと表記されることから、「ザイオンス効果」「ザイオンスの熟知性の法則」とも呼ばれています。
ザイオンス氏が行った実験
このザイオンス効果は、大学生を対象にした実験から導き出されました。
実験では、卒業アルバムの中から12人の写真を選んで被験者に見せます。各写真を見せる回数は、写真によって1回〜25回とばらつきをつくります。写真を全て見せ終わってから、12人の写真を並べて、一番好印象を持った写真を選んでもらいます。
すると被験者は、25回見せられた写真を選ぶ傾向があったのでした。
無意識の単純接触でも好ましく感じる
また別の実験では、中国人以外の学生に「意味を持たない漢字のような図形」を、一つあたり2秒ごとに12個見せます。同じ図形を見せる回数は被験者ごとに差がつけられ、同じ図形を5回見る被験者もいれば、25回見る被験者もいるようにします。
全ての図形を見せ終わってから、学生には「どの図形が見た目だけの印象で良かったか」に点数をつけてもらいました。
すると、もっとも頻繁に見せられた図形がもっとも肯定的な評価を受けたのでした。
見せる時間を1000分の4秒(脳が意識的に判別できない時間)にしても同じ結果が起きたことから、ザイオンス効果は無意識に作用することもわかりました。
繰り返し接触していることに気づいていなくても、効果があるんですね。
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ザイオンス効果の身近な例
僕たちが普段よく体験しているザイオンス効果の例が、テレビCMです。
初めて見るタレントがやっている知らない商品のCMを見ても、初めはなんとも感じないと思います。CM内で流れる曲にも興味を抱きません。
ところが、何度となく同じCMを見ているうちに、タレントに対してなんだか好感を抱くようになったことはありませんか? キャッチコピーやメッセージに対しても好感を抱くようになってきます。
いつの間にか、曲を口ずさんでいたりもしますよね。
その結果、買い物で商品を選ぶ時には「知らない商品」よりも、テレビCMで見た「知っている商品」の方が身近に感じるようになります。
そのためテレビCMや広告では、消費者の記憶にすばやく定着させるために、短期間に多くの露出を狙うようにしています。
もっとも身近なザイオンス効果の例は自分自身
もっとも身近なザイオンス効果の例が、自分自身です。
写真や動画で自分の顔を見ると、なんだか違和感を感じることはありませんか?
普段、自分の顔は、鏡をとおして見ることが多いと思います。ほぼ全ての人は、少しだけ左右非対称の顔をしています。つまり、普段は左右反転した自分の顔に見慣れているんですね。
そのため、写真や動画で自分の顔を見ると、違和感を感じやすくなります。
声も同じです。普段の自分の声は、自分自身の頭蓋骨に響いた声を聞いています。ですので、動画で自分の声を聞くと、「うわ、変な声! 私ってこんな声してるんだ・・・」と違和感を感じてしまいます。
普段見慣れているモノ、聴き馴染んだモノが心地良いと感じてしまうのは、ザイオンス効果によるものです。ですので、普段から自分自身を写真や動画で撮ったりして見慣れていれば、この限りではないかもしれないですね。
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ザイオンス効果は接触時間ではなく接触頻度が大切
ザイオンス効果は、接触する頻度が大切です。
例えば、月に一度だけ長時間会う人よりも、10分だけでも、毎日会う人の方に好感を抱きやすい傾向があります。逆に言うと、会う頻度が少なくなるほど、好感も薄れていくことになります。
「遠くの親戚より近くの他人」をもじった「遠くの恋人より近くの他人」なんて言葉もありますが、遠距離恋愛がうまくいかない理由は、ザイオンス効果によるところもあります。
接触回数は10回以上は同じ?
ちなみにザイオンス効果の実験では、印象が変わる回数には限界があることがわかっています。
それは、10回がピークで、それ以上は何回接触しても印象は変わらないということです。
もしも、あなたが好意を抱いている異性がいたとして、二人きりで10回以上会っているにもかかわらず恋愛関係に発展していないのだとしたら、これ以上同じように接触回数を増やしても、あまり期待ができないということですね。
その場合は、見た目を変えるなど印象を変えてから、改めて接触する必要があります。
恋愛でのザイオンス効果の使い方
ザイオンス効果を恋愛に応用すると、好意を持っている人には出来るだけ接触する回数を増やせば良いことがわかります。
例えば、同じ学校や社内に好きな人がいるのなら、挨拶を交わす機会を増やすようにします。長時間話すことを目的にするのではなく、短時間でもいいので接触回数を増やすように心がけます。
あまり会えない間柄なら、用事を見つけては連絡するようにします。その際には、相手の好きなことに関係する内容が良いですね。
相手の好きなことを中心にして接触回数を増やす
相手の好きな芸能人、ドラマ、漫画、趣味、夢、目標などをさりげなく聞いておいて、「◯◯さんが好きだって言ってた△△を見つけたんだけど、もう知ってた?」というような連絡をします。
あるいは、「△△に興味があるんだけど、◯◯さんて詳しかったよね。よかったら教えてくれない?」と尋ねるようにします。
相手の好きな内容であれば、話もはずみやすくなりますよね。
いきなり恋愛モードで接触すると警戒心を持たれる可能性がありますので、まずは友達モードでもいいので接触回数を増やすようにします。
ただしザイオンス効果には、このあと解説する逆効果があります。ですので、ただただ接触回数を増やすのには注意が必要です。
営業でのザイオンス効果の使い方
ザイオンス効果をマーケティングに応用すると、お客さんとの接触回数を増やすことで好印象を持ってもらえるように努めることができます。
セールスパーソンはたとえビジネスの用事がなくても、何度となくお客さんの元へ挨拶に向かうことで、はじめは警戒心があったお客さんでも、しだいに好印象へと変化しやすくなります。
ビジネス以外の用事でも、親切に接していれば返報性の原理が働いて、「なにかお返ししなくちゃ」と、話を聞いてもらいやすくなる効果もあります。挨拶に行くのが難しければ、ちょっとした用事を見つけてメールをすることで、接触回数を増やすこともできます。
Webマーケティングでのザイオンス効果の使い方
ザイオンス効果をWebマーケティングで使うには、メールマガジンを発行することで接触回数を増やす方法があります。
月に一回よりは週に一回、週に一回よりは毎日発行することで、接触回数を増やせます。
あるいは、ブログ記事をできるだけ更新します。SNSでもできるだけ投稿します。ブログ記事の更新をSNSで紹介して、Webサイトへアクセスしてもらうことで、接触回数を増やします。
広告を打つのなら、テレビCMと同様に少額で少しだけの露出よりも、多くの費用をかけて多くの露出を一度に狙った方が効果は高くなります。なぜなら、人はすぐに忘れてしまう生き物だからです。
エビングハウスの忘却曲線では、「人は新しく得た知識について、一日後には74%も忘れる」とされています。
ですので、何度も現れるリターゲティング広告【※】は、ザイオンス効果の高い広告手段だと言えます。
ザイオンス効果は主張の好意度を上げる
ザイオンス効果を意識してブログ記事やメルマガを書くことができれば、書き手の主張に対する好意度を上げることができます。
文頭または文末に、毎回同じメッセージを書いておけば、読み手は自然と印象に残り、そのメッセージに対して好印象を抱くようになっていきます。
例えば、毎回ブログ記事の文末で「お金を稼ぐことは悪いことではありません。どんどん稼いでいきましょう!」という主張を書いておいたとします。はじめは「なんだこのメッセージは?」と、読み手が違和感を感じたとしても、徐々にメッセージを受け入れるようになります。
ただし、ザイオンス効果は逆効果になってしまう重要な注意点があります。
逆効果のザイオンス効果とは
接触回数を増やすことが好印象につながるザイオンス効果ですが、重要な注意点があります。
ザイオンス効果は、「嫌い」を「好き」にさせるものではありません。印象が悪いまま単純に接触回数を増やした場合には、悪い印象がどんどん大きくなります。
ですので恋愛では、嫌われている相手に「私のことを好きになってよ!」と何度会いに行ったとしても、ストーカーとして扱われて余計に嫌われてしまいます。
ビジネスにおいても、(嫌がられる)セールスばかりのメールマガジンを毎日発行していると、印象はどんどん悪くなってしまうということですね。
ということは、第一印象はできるだけ良い印象が残るように心がけることが大切ですね。
例えば、初回のメールマガジンや日々のブログ記事では、お客さんのためになる情報を提供するようにして、いきなりセールスをしたり、毎回セールスばかりをしないことが大切です。(セールスが悪いのではなく、相手の望んでいない売り込みが印象を悪くするという意味です)
もしも悪い印象を与えたとしたら、良い印象に変えてから接触頻度を上げるようにします。
良い内容でも接触頻度が多すぎると嫌われる?
Web集客の場合、たとえ素晴らしい内容のメールマガジンだったとしても、敬遠されてしまう場合があります。
例えば、読むのに20分もかかるボリュームのメルマガが、毎日送られてきたらどうですか?「読むのに時間がかかるから、後で読もうかな」と思って結局読まなかったり、面倒に感じて読む気にさえならなかったりするかもしれません。
あるいは「30秒で読める豆知識」と称して一日に何度も送られてきたら、うっとうしいとさえ感じてしまう可能性もあります。
つまり、恋愛であろうがビジネスであろうが、相手のことを考えたボリューム・内容・頻度にすることが大切だということですね。
まとめ
ザイオンス効果(単純接触効果)とは、接触回数を増やすことで、好印象を持つようになる心理現象です。注意点としては、印象が悪いまま接触回数を増やした場合は、逆効果になってしまうことです。
Webマーケティングに活かすには、メールマガジンなどで、できるだけお客さんとの接触頻度を上げることが大切です。
とは言え、無意味に増やしても効果はありません。お客さんにとって適切な頻度、有益な情報の適量を心がけてみてください。
さらに心理学をマーケティングに応用する方法は、こちらを参考にしてください。
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