戻ってこない費用のことを、サンクコスト(埋没費用)と言います。ファイナンスや経済学ではよく使われる用語です。
また、サンクコストに引きずられて未来の判断を誤り、さらに損失を拡大させてしまう現象を、サンクコスト効果やコンコルド効果と言います。
この記事では、
- サンクコストとコンコルド効果とは何か?
- コンコルド効果に陥る心理的なカラクリ
- 「もったいない心理」を使ったマーケティングの方法
- コンコルド効果に陥らない方法
について解説します。
人の無意識に働くお金の心理を理解して、正しい未来を判断するために役立ててください。
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サンクコストとコンコルド効果とは
サンクコスト(Sunk Cost)とは、回収が不可能になった投資費用を指します。サンク(Sunk)とは「Sink:沈む」の完了形で、「沈んでしまって手元には戻らない費用」という意味になります。
これから何かをする時にはサンクコストを気にする必要はないのですが、多くの人はサンクコストに引きずられて未来の判断を誤ってしまう傾向があります。
今まで投資したサンクコスト(お金・時間・労力)が無駄になるのがイヤで、損するとわかっていても後には引けないと感じるんですね。
このような心理現象は、行動経済学ではコンコルド効果(Concorde effect)、経済学ではサンクコスト効果(埋没費用効果)と呼ばれます。どちらも意味は同じです。
コンコルド効果は認知バイアスの一つ
先入観や思い込みから判断が歪められてしまうことを「認知バイアス」と言いますが、コンコルド効果もその認知バイアスの一つです。
- コンコルド錯誤(さくご)
- コンコルドの誤謬(ごびゅう)
- サンクコストの呪縛
などとも呼ばれます。
つまらない映画を観た時のサンクコストの例え
コンコルド効果を簡単に言えば、「もったいない・・・」という気持ちが冷静な判断力を奪う心理現象です。
例えば、1800円を支払って観始めた映画が開始5分でつまらなく感じたとします。「つまらない」と感じたなら、すぐに映画館を出れば別の楽しい時間を過ごせる可能性があるはずです。
ですが多くの人は、「支払った1800円がもったいない」と感じて、つまらないと分かっているのに最後まで映画を観ようとしてしまいます。
支払ったコスト(サンクコスト)は何をしても戻ってこないのに、「もったいない・・・」という心理が未来の判断に影響を与えてしまうんですね。
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サンクコストの実験
1985年にアメリカで行われた実験では、サンクコストが未来の選択に影響を及ぼすことがわかります。あなたなら次の問題に対して、どのような選択をしますか?
あなたはバスケットボールの観戦チケットを購入しました。すでにチケット代の40ドルは支払いをすませています。試合当日、天候は吹雪で外へ出かけるのも大変でした。さて、あなたはどうしますか?
- A:観戦に出かける
- B:暖かい家でテレビ観戦する
このケースの場合は、多くの人がAを選びました。すでに代金を支払っているんですから、観戦に行かなきゃもったいないと感じますよね。
では次のケースはどうでしょうか?
悪天候の状況は先ほどと同じですが、観戦チケットはプレゼントされたものでした。
- A:観戦に出かける
- B:暖かい家でテレビ観戦する
こちらのケースの場合は、多くの人がBを選びました。あなたも同じだったのではないでしょうか?
選択が変わる原因は、サンクコスト(すでに支払ったチケット代金)ですよね。すでに投資したサンクコストに気を取られてしまうからこそ、自分にとって正しいと感じる選択ができなくなってしまうんですね。
ちなみに、お金を扱う時に判断や価値が変わってしまう心理作用を、行動経済学ではメンタルアカウンティングと言います。
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名前の由来となったコンコルド開発の失敗事例
コンコルド効果の名前の由来は、超音速旅客機コンコルドの商業的な失敗から来ています。
1962年、イギリスとフランスは共同で超音速旅客機コンコルドの開発を始めました。
コンコルドは世界初の超音速旅客機として、近未来を感じさせるデザインや、ジャンボジェット機の3倍のスピードにあたるマッハ2.0(時速約2400km)といった高性能が人気を呼び、開発当初は世界各国から100機を超える注文が入りました。
しかし、開発を進めていくなかで
- 通常よりも長い滑走路が必要
- 騒音やソニックブームの影響を避けるために特別な航路でしか就航できない
- 乗客の定員数が100人ほどしかない
- 価格が恐ろしく高くなる
- 燃費が著しく悪い
といった悪条件が判明しました。
そして、時代の流れが経済的な大型旅客機へと傾いたことから、キャンセルが相次ぐようになりました。
このまま開発を続けても利益の回収は見込めないところまでプロジェクトが難航したところで、開発を続けた場合にどれくらいの金額がかかるのかが試算されました。
開発を続けると大赤字が判明・・・
すると、「今すぐプロジェクトを中止して、旅客機会社に違約金と賠償金を支払った方がはるかに安くすむ」という結果が出るほどの大赤字であることがわかりました。
それでも、開発を中止したら今まで投資した予算や時間、労力などのサンクコストが全て水の泡と消えてしまうことや、責任問題の追求の恐れから、プロジェクトは進んでしまいました。
結果的に、250機の受注で採算が取れるとされていたところ、16機しか製造されずにプロジェクトは大赤字に終わりました。4000億円の開発費に対して、数兆円の赤字だったと言われています。
ちなみに、1976年に導入されたコンコルドは、2003年に全ての就航を終えています。
コンコルド効果の身近な例
「使ったお金や時間がもったいない」と感じるコンコルド効果は、身の回りにたくさん存在しています。
ガチャのサンクコスト
基本的には無料で遊べるスマホゲームには、「ガチャ」と呼ばれるレアなアイテムをランダムで入手できる課金システムがあります。
このガチャには「コンプリートガチャ」と呼ばれるものがありました。レアアイテムを手に入れるためには、ガチャを通して出てくるいくつかの特定アイテムを全て揃えなければいけないシステムです。
このコンプリートガチャの課金は請求が後払いだったために、未成年が親のお金を使い込むケースが増えて問題になりました。
たとえ最初は「1000円分だけ・・・」と心に決めていたとしても、狙ったアイテムをゲットできなかった場合、「ここでやめたら使った1000円が無駄になる・・・」とサンクコストが気になって、何度もガチャをしたくなるんですね。
ギャンブルのサンクコスト
「ここでやめたら大損で終わる・・・」というコンコルド効果は、ギャンブルに多いのではないでしょうか。
例えばパチンコで1万円負けている場合、「1万円も突っ込んだんだから、あと5000円もつぎ込めば大当たりが来るはず・・・」という根拠のない思い込みから、5000円、1万円と、さらに負けを大きくしてしまうケースがあります。
サンクコストに気を捉われなければ、1万円の損失で済んだ可能性があるのに、わざわざ損失を大きくしてしまいます。
ちなみに、ランダムなものを予測してしまう心理現象は、『ギャンブラーの誤謬』と言います。
例えばルーレットで、赤と黒のどちらかに賭けたい場合、赤が連続で何回か出ていると、「次はそろそろ黒が出る」と予想してしまうことです。局面的には確率は常に1/2なのですが、統計性を考えてしまいます。
◯◯放題のサンクコスト
食べ放題や飲み放題にもサンクコストの呪縛があります。
「3000円払ったんだから、元を取らなきゃもったいない!」と、お腹を壊すくらい無理して食べたり飲んだりしてしまうケースがありますよね。
カラオケでの歌い放題だって、時間いっぱいまで歌わないと損する気持ちになります。遊園地での乗り放題にしても、目一杯乗り倒さないと損するような気持ちが生まれますよね。
「◯◯放題」とは、本来は楽しむ権利を手に入れることです。
それなのにサンクコストの呪縛に捉われると、楽しむことではなく「元を取る」ことだけに目が向いてしまいます。
なぜコンコルド効果は起こる?
すでに取り返すことができないモノなら本来は考えても仕方ないのですが、それでもやっぱり使ったお金や時間は、判断材料に加えてしまいがちです。
このようなコンコルド効果は、なぜ起こるのでしょうか?
これには、次のような心理が関係していると考えられます。
- 一貫性の原理:始めたことは最後までやり通したい心理
- ザイオンス効果:接触回数が増えることで好感を持つ心理
- 現状維持バイアス:行動を変えるのは損失に感じる心理
- 認知的不協和:損したことを認めたくない心理
1. 一貫性の原理:始めたことは最後までやり通したい心理
人は自分で決めたことに対しては、最後まで一貫性をもった態度を取ろうとする心理が働きます。
なぜなら、それが脳にとっては簡単な選択で、社会的にも評価されやすい行動だからです。
脳はできるだけイージーモードで稼働できる選択を好みます。一度決めたことを最後までやり遂げるのは、脳にとってはすごくラクな行動だからです。そのため、ケースバイケースで物事を考えるよりも、初志貫徹を貫くことを選びがちになってしまいます。
またコロコロと行動が変わったのでは、社会的に「信用できない人」とレッテルを貼られる可能性があります。社会的な繋がりは重要ですので、一度決めた行動は、なかなか変えられない選択であると言えます。
ですので、一度進めた投資(行動)を途中でやめるのは、難しい判断だと感じやすくなるんですね。
2. ザイオンス効果:接触回数が増えることで好感を持つ心理
人は同じモノに接する回数が増えるほど、そのモノに対して好感を持つ心理傾向があります。
例えばスーパーマーケットで、初めて見る商品よりも、テレビCMで見慣れた商品の方が選びやすいと感じてしまうことです。
一度始めた投資(ビジネス)に対しても、何度となく接していくうちに親近感が芽生えてくることがあります。
そのため、愛着が湧いて「やめたくない」と感じやすくなるんですね。
3. 現状維持バイアス:行動を変えるのは損失に感じる心理
人は現状を変えることで得られるメリットよりも、現状を変えることで起こるデメリットの方が大きいと感じて、現状を維持しようとする傾向があります。
その理由は、脳は新しい行動を嫌う性質があるからです。
例えば、太古の時代を思い浮かべてみてください。今いる安全な土地をわざわざ離れて新しい土地へ移動することは、未知の危険な動物と遭遇する可能性が増えることになりますよね。
身の安全を守るには、新しい行動よりも現状を維持することの方が優先事項になります。脳にとっては未知の新しい行動は恐怖の対象であり、最大の警戒が必要な事柄になるわけです。
ですので、たとえ損をするとわかっていたとしても、ズルズルと現状維持を続ける選択をしやすい傾向があるんですね。
たとえつまらないと感じた映画でも、新しい行動である「観るのをやめる」という選択を損失に感じてしまうということです。「・・・もしかしたらこの後、面白い展開が待っているんじゃないか?」と思ってしまいやすいんですね。
4. 認知的不協和:損したことを認めたくない心理
人は自分の中で矛盾が生まれると、自身を正当化させるために、思考を変えてその矛盾を解消させようとする心理が働きます。
例えば、儲けるために新しく事業を始めたのに、1000万円の損失を出したとします。結果だけを見れば、その事業は失敗です。
ですが、「自分は失敗していない」「自分は愚かではない」と思い込みたいために、「たまたま運が悪かっただけ・・・」「まだ改良の余地があるはず・・・」と、失敗した要素が他にあることにして自分を正当化しようとします。
コンコルドの開発にしても、「たまたまオイルショックと重なって開発費が高騰したただけ・・・」「もう少しすれば時代が追いつくはず・・・」などと、失敗の原因を他に求めて正当化したことが考えられます。
コンコルド効果を応用したビジネスモデル
商品を販売する際には、コンコルド効果をビジネスに応用することができます。
分冊百科と呼ばれるデアゴスティーニは、「今まで使った時間やお金を無駄にしたくない」という気持ちをうまく利用しているビジネスモデルだと言えます。
一年以上かけて販売される商品は、「途中でやめたら損をする」というコンコルド効果がなければ、成功しにくいかもしれません。
さらにデアゴスティーニは、「最後までやり遂げたい」気持ちが生まれるツァイガルニク効果もうまく利用しています。
マーケティングに応用する コンコルド効果
「失ったお金や時間を無駄にしたくない」というコンコルド効果は、お客さんに「もったいない」と感じてもらうことで、マーケティングに応用することができます。
- 次回◯円引き
- あと◯円で送料無料・割引
- あと◯日でポイントが失効します
- 毎月支払い
次回◯円引き
飲食店でよく見かけるコンコルド効果を応用したテクニックに、「次回◯円引き券」があります。
「次回◯円引き券」は、次回に使える “お金” の代わりであると言えます。すでに手に入れた “お金” は、使わないと損する気持ちになりますよね。
ですので、期限を設けた「次回◯円引き券」は、リピーター獲得のために有効な手段です。
あと◯円で送料無料・割引
通販のECサイトでよく見かけるのが、「あと少しでお得になりますよ」という案内です。
- 5,000円以上のお買い上げで送料無料です
- 10,000円以上のお買い上げで10%オフです
といった案内があると、「どうせ買うんだから、あと1点買い物を増やさないと損するな・・・」という心理が生まれやすくなります。
コンコルド効果を狙って、購入点数や購入単価を増やしてもらうことに有効です。
あと◯日でポイントが失効します
ポイントカードを発行しておけば、期限での失効ポイントをお知らせすることで、お客さんの「せっかくポイントが溜まってるのに、なくなると損するな・・・」という気持ちを引き出せます。
失効のお知らせは、お客さんとの接触回数を増やすことを目的に利用できます。接触回数を増やすことは、お客さんに存在を思い出してもらい、親近感を抱いてもらいやすくなります。
これは先ほど紹介したザイオンス効果ですね。
毎月支払い
お客さんに長期利用をしてもらいたいのであれば、スポーツクラブなどの会員制ビジネスでは、年会費を一括で支払ってもらうのではなく、毎月支払ってもらうようにします。
毎月支払うことで、お客さんは「使わないともったいない・・・」というサンクコスト意識が働き、利用頻度と継続率が高くなります。
コンコルド効果に陥らない対策
人生においてサンクコストの呪縛から解放されるためには、どうすれば良いのでしょうか?
それには、次のような方法が考えられます。
- ゼロベースで考える
- 止めてくれるパートナーを持つ
- 限界数値を設定する
- 失敗を実験だと思う
1. ゼロベースで考える
ゼロベースとは、目標に対して常に白紙の状態で考えるということです。
サンクコストに限らず、人は多くの認知バイアスにかかる生き物です。過去の栄光に捉われたせいでプライドが邪魔をしたり、過去の挫折に影響されたせいで必要以上にプレッシャーを感じたりします。
また他人の影響を受けて、自分のアイデアに制限をかけたりしています。
常に白紙の状態で物事を捉えれば、いろんな影響や偏見を受けることなく、自分にとって正しい選択ができるようになります。
例えるなら、フルマラソンを走っているとして、40kmの地点で足をくじいた時に、
- 「せっかく40kmまで走ってきたんだから・・・」
- 「このマラソンに備えて数ヶ月も頑張ってきたんだから・・・」
というサンクコストを捨てて、「この足であと2km走れるかどうか?」だけを考えて、シンプルに判断することができます。
2. 止めてくれるパートナーを持つ
何かに没頭している時には、第三者の目線で冷静に判断してくれるパートナーを持つことも大切です。
人はたとえ「自分は常に冷静だ」と思っていたとしても、ギャンブルや何かに没頭している時には、冷静さや理性がなくなってしまうことがあります。
お酒を飲んだ時に、気が大きくなったりするのと一緒ですね。
そんな時には、あなたが信頼する人からの助言を受けることで、冷静さを取り戻すことができます。
3. 限界数値を設定する
サンクコストの呪縛に陥らないためには、限界数値を最初に設定しておくことが大切です。
例えばギャンブルなら、「最大1万円の損失で何がなんでもやめる」ということを決めておきます。そうすることで、「1万円も突っ込んだんだから、もったいない・・・」というコンコルド効果を防ぐことができます。
4. 失敗を実験だと思う
多額の投資をしたにも関わらず、成果が出なくて失敗だと感じたとしても、失敗を恥だと思わないようにすることが大切です。
もっと言えば、失敗ではなく「成功しない方法を知ることができた」という意識の転換が必要です。
有名な逸話ですのでご存知だとは思いますが、発明家トーマス・エジソン氏は電球を発明するまでに1万回失敗したことに対して、
「失敗ではない。うまくいかない方法を一万通り発見しただけだ」
と語っています。
さらに、
「失敗は積極的にしていきたい。なぜなら、それは成功と同じくらい貴重だからだ。失敗がなければ、何が最適なのかわからないだろう」
という言葉を残しています。
失敗を失敗だとは思わずに実験だと考えれば、サンクコストについても違った見方ができますよね。
まだ kindle読み放題してないの?
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まとめ
サンクコストとは「埋没費用」と訳され、何をしても回収が不可能な費用のことです。
コンコルド効果(サンクコスト効果)とは、サンクコストが気になってしまい、「もったいない」という気持ちから後には引けなくなる心理傾向のことです。
コンコルド効果に陥らないためには、次のようなことに気をつけることが大切です。
- ゼロベースで考える
- 止めてくれるパートナーを持つ
- 限界数値を設定する
- 失敗を実験だと思う
例えばあなたの家に、ずいぶん前から使わなくなった健康器具なんかはありませんか? 1年以上使っていないなら、家のスペースを無駄に占拠しているだけに過ぎません。
「もったいない」という気持ちは、時に誤った判断をしてしまいます。ゼロベースで考えてみて、正しい判断をするように心がけてみてください。
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