顧客心理を掴む心理学

ローボール・テクニックとは?詐欺師も使う騙しの説得テクニック

2017-08-31

ローボール・テクニック

人は一度承諾をしてしまうと、たとえ条件が多少変わっても断りにくくなる性質を持っています。この性質をついた、ズルい交渉術がローボール・テクニックです。

普通に交渉をした場合と比べると成功率が2倍ほども上がることから、営業トークや恋愛の駆け引きでもよく使われる心理テクニックです。

ただし、十分に注意をして使わないと、相手は「騙された!」と感じてしまうリスクがあります。

交渉相手に「騙された!」と思われないために、また、あなた自身が騙されないために、ローボール・テクニックの使い方と防ぎ方について知っておいてください。

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ローボール・テクニック (特典除去法)とは

ローボール・テクニック(low-ball technique)とは、まずは好条件だけを提示して、承諾を得たあとで都合の悪い条件を付け加えたり、好条件の一部を取り除いたりする交渉術のことです。

承諾を得たあとで好条件を取り除くことから、日本語では「特典除去法」「承諾先取り法」などと訳されます。

名前の由来は、キャッチボールをする時に「最初に低くて取りやすいボールを投げれば、のちに高くて取りにくいボールでも受けてしまう」という描写から来ています。

ローボール・テクニックの会話例

日常にあるローボール・テクニックの会話例は、次のとおりです。

営業での会話例

A:「こちらのベーシックプランですと、最安値でご利用できますよ」
B:「じゃあ、そのプランにします」
A:「・・・オプションをつけないと使いづらいかもしれませんが、どうされますか?」
B:(え? じゃあオプションをつけようかなぁ・・・)

恋愛での会話例

A:「今度、Cさんと3人で飲みに行かない?」
B:「うん、いいよ」
A:「・・・Cさんが来れなくなっちゃったんだけど、大丈夫だよね?」
B:(え? 一度いいよって言っちゃったしなぁ・・・)

詐欺師が使う会話例

A:「桃が一個90円だよ!試食してみて!」
B:「・・・すごくおいしい!もらおうかな」
A:「ありがとうございます、今試食してもらったのは一個400円の桃です」
B:(え? おいしいって言っちゃったし、断りづらいな・・・)

承諾を得るために悪条件を隠したり、ウソをついていると考えれば、「ズルい!」と感じてしまいますよね。

ビジネスで使われるローボール・テクニックの身近な例

ローボール・テクニックのセールス手法は、わりと身近に存在しています。

例えば、携帯電話がすごく格安で申し込みをしようとすると、

  • 「途中解約すると違約金が発生します」
  • 「◯◯プランに加入の方のみ適用です」

などと、面倒な条件が付いてきたことがありませんか?

あるいは、一番安いパソコンを選んだはずなのに、CPUの変更や、グラフィックボード、ハードディスクなどのオプションを変更していくことで、結局はそこそこの価格になってしまったという経験はないですか?

セールの場面でも、「70%オフ開催中!」という宣伝につられてショップへ入ってみたら、70%オフの商品はごく一部で、ほとんどが20〜30%オフだった・・・なんてこともあるのではないでしょうか。

これらのほとんどは最初の条件とは違ってしまったとしても、「じゃあ買わない!」とはならずに、「・・・まぁ、いいか」と、変更された条件を受け入れてしまうと思います。

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条件が変わっても承諾してしまう3つの心理

条件が変わったにもかかわらず、ついつい承諾してしまうのは、次の3つの心理作用が考えられます。

  1. 自分を納得させる認知的不協和理論
  2. 一貫した態度を取ろうとする一貫性の原理
  3. 費やした時間や労力がもったいないと感じるコンコルド効果

1. 自分を納得させる認知的不協和理論

人には、自分自身の言動を肯定したい欲求があります。

理想と現実にギャップがあった場合には、なんとか自分を肯定する理由を探し出します。これを心理学では「認知的不協和理論」と言います。

たとえば安いパソコンを買おうとしたのに、結果的にそこそこの価格になってしまった場合は、「安くても使いにくければ意味がないもんな・・・」と、価格が高くなってしまった理由を正当化しようとします。

条件が変わっても承諾してしまうのは、この認知的不協和理論で自分自身を納得させてしまうからですね。

2. 一貫した態度を取ろうとする一貫性の原理

また、人は自分で決めたことに対しては、最後まで一貫した態度を取ろうとする心理傾向があります。これを心理学では「一貫性の原理」と言います。

たとえば街中で、「簡単なアンケートにお答えいただければ、新発売のドリンクを差し上げています!」とお願いされて、「いいですよ」と答えたとします。

「ではこちらになります」と出されたアンケートの内容が10分以上かかりそうで、「これって簡単じゃないよな・・・」と感じたとしても、ついついアンケートに答えてしまうのではないでしょうか。

一度承諾したにもかかわらずに断ってしまうと、いい加減で無責任な人に見られてしまう気がしますよね。多くの人は冷たい目で見られるのはイヤですから、自分の言動については責任を持ちたいと考えます。

ですので、一度承諾したことについて、ついつい一貫性を保とうとする傾向があります。

3. 費やした時間や労力がもったいないと感じるコンコルド効果

さらに、人は費やした時間や労力をもったいないと感じる心理傾向があります。これを心理学では「コンコルド効果」と言います。

たとえば、安いパソコンを買おうと1時間も遠出をしたのに、そんなに安くない価格だった場合は、「1時間もかけて来たんだから、買って帰らないと時間が無駄になる・・・」と感じやすくなります。

ローボール・テクニックで新しい条件が出てきても、ついつい承諾してしまうのは、費やした時間や労力を無駄にしたくないコンコルド効果が働くからです。

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ローボール・テクニックと似ているフットインザドア・テクニック

一貫性の原理を応用した有名な交渉テクニックには、ローボール・テクニックの他に「フット・イン・ザ・ドア」があります。

フット・イン・ザ・ドアとは

フットインザドア・テクニックとは、最初に出す小さな要求を承諾してもらって、徐々に要求のレベルを上げることで、本命である大きな要求を通しやすくする交渉術です。

例えば、商品を購入してほしいと思ったら、まずは相手に話を聞いてもらわなければいけません。話を聞いてもらうにしても、30分もかかるようなら聞きたいとは思ってもらえない可能性があります。

そこで、「5分だけでもお時間はありますか?」と尋ねて、小さな承諾を得るようにします。小さな要求を受け入れてもらうことで、10分、20分と話せるチャンスを増やして、最終的な目標である商品販売につなげます。

ローボール・テクニックとフット・イン・ザ・ドアの違い

フット・イン・ザ・ドアは、最初に出す要求と後から出す要求では内容が変わります。

一方のローボール・テクニックは、要求する内容自体に変わりはありません。ただし、要求を受け入れてもらった後で、要求の条件を変えます。

最初から提示していれば断られるかもしれない条件を隠しておくわけですから、詐欺だと思われかねない側面を持っています。

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ローボール・テクニックの実験例

騙しの要素が入っているローボール・テクニックがどれほど効果的なのか、社会心理学者のロバート・B・チャルディーニ氏が行った実験があります。

チャルディーニ氏は学生に電話をして、朝7時から始まる心理学の研究に参加するようにお願いをしました。条件をすべて話してお願いをした場合には、24%の学生しか参加を申し込みませんでした。

朝7時から始まる研究なんてツラいですから、多くの学生が断りました。

ですが、同じ内容でもローボール・テクニックを使って頼んだ場合は、56%の学生が参加の申し込みをしたのでした。普通にお願いした場合と比べると、2倍強の成功率です。

承諾を得た後で悪条件を提示すると断られない

チャルディーニ氏が行ったローボール・テクニックとは、まずは学生に「心理学の研究に参加しないか?」と持ちかけます。このお願いには、56%の学生が参加の意思を示しました。

そしてその後で、悪条件の「開始時間が朝7時であること」を告げました。

開始時間を知った後で断る機会があったにもかかわらず、学生は誰一人として断ることはありませんでした。

一度承諾をしたことで、自分の言動に責任感が芽生える一貫性の原理が強力に働いた結果だと言えますね。

ローボール・テクニックの注意点

ローボール・テクニックをそのまま使おうとすると、どうしても騙しの要素が入ってしまいます。もしも相手に「意図的に条件を変えられた?」と気づかれたら、「騙された!」としか受け止められません。

突発性を装って「私も予想外なんですが、条件が変わってしまいまして・・・」と演技をして条件を変えたところで、大抵の人は不信感が残ります。ですのでローボール・テクニックは、信用を失うリスクの高い交渉術なんですね。

もしもローボール・テクニックを使うなら、謝罪してから条件を変えるべきです。

  • 「こちらの手違いでした」
  • 「伝え忘れていました」

と謝って、相手に一度承諾を取り消すように促します。

一度白紙に返すことで、相手はこれまでのやり取りと、これから先のメリットを天秤にかけてくれます。これから先のメリットが勝てば、条件が変わっても受け入れてくれます。

白紙に返すとは言え、一度は『承諾した』という一貫性の原理が働きやすくなります。いやらしい言い方をすると、こちらが誠意をもって謝ることで、返報性の原理が働くことも考えられます。

ですので、ローボール・テクニックを使う場合は、謝罪してから条件を変えることが大切ですね。

ローボール・テクニックを受けた時の対処法

あなたがローボール・テクニックを仕掛けられた場合は、新しく変更された条件について、「もともと想定していた範囲内であるのか?」を冷静に判断することが大切です。

  • 一度承諾したんだから、断りづらいな・・・
  • 謝ってくれたんだから、条件を変えてもいいかな・・・
  • せっかくここまで交渉してきたんだから、白紙にするのはもったいないな・・・

という気持ちは無視するようにします。

自分の目的に見合った条件であることを確認して、相手の立場は考えないことが、一貫性の原理、返報性の原理、コンコルド効果のトラップに陥らないコツです。

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まとめ

ローボール・テクニックとは、最初に甘い条件で承諾を得てから、その甘い条件の一部を取り除いたり、悪条件を付け足したりする交渉テクニックです。

使い方によっては詐欺になる、信用を失うリスクの高い交渉術だと言えます。

「フット・イン・ザ・ドア」「ドア・イン・ザ・フェイス」と並んで、説得の三大テクニックとして有名な交渉術です。

もしもローボール・テクニックを使うなら、謝罪してから条件を変えることが大切です。とは言え、仲良くしたい相手には、使わない方が良いテクニックですね。

さらに説得力を高める方法を知りたい場合は、こちらを参考にしてください。
説得力を高める16の秘訣|心理テクニックでYESを引き出す方法

参考図書

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高木浩一

心理学と脳科学が好きなマーケティング・Web集客の専門家/解脱しかけのゲダツニスト/ 大企業のマジメな広告デザインから男性を欲情させるアダルティな広告デザインまで、幅広い分野を経験した元グラフィックデザイナー。心理面をカバーしたマーケティングとデザインの両方の視点をもつ。個人が個人として活躍する時代に向けて「使えるマーケティング」をモットーに情報発信中。

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