ある出来事について、楽しさや苦しさ、喜びや悲しみが深く印象に残るのは、ほぼ完全にその出来事のピーク(絶頂期)とエンド(最終局面)の状況に依存します。
この心理現象を、心理学では「ピーク・エンドの法則」と言います。
このピーク・エンドの法則は、「去り際が大切」という恋愛テクニックとしてよく紹介されます。
応用すれば、お客さんに良い印象を残して、リピーターやファンを増やすマーケティングとしても使うことができます。さらに、プレゼンやブログ記事を書く時にも使えます。
たった2つの印象に気をつけて、相手に好印象を残す方法を手に入れてください。
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ピーク・エンドの法則とは
ピーク・エンドの法則(peak-end rule)とは、人はほとんどの過去の経験を、時間的な長さではなく、ピーク(最良か最悪)とエンド(最終局面)の度合いで判断しているという理論です。
プロスペクト理論で有名な行動経済学者のダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)氏が、1999年に発表した論文の中で紹介された経験則です。
ピーク・エンドの法則の例え
例えば、昔付き合った恋人との思い出を振り返ってみてください。
思い出として蘇ってくるのは、「一番楽しかった」あるいは「一番ツラかった」思い出と、「別れ際」の思い出ではないですか?
この2つの思い出の印象で、楽しかった恋なのか、ツラかった恋なのかを、全体の印象として記憶していると思います。
小学生の思い出と言えば卒業式?
もうひとつ、小学生の頃を思い出してみてください。
ピークに感じる経験は人それぞれですが、ピークの経験になりやすい「修学旅行」と、ラストの経験になりやすい「卒業式」を思い出しませんでしたか?
ピークとエンドの2つの印象によって、小学生時代の全体的な印象が決定づけられていると思います。
他にも経験した情報は記憶としては存在するのですが、全体としての印象を決定づける判断材料には使われず、ピークとエンドの2つの印象によって判断される傾向にあります。
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ピーク・エンドの法則の実験
ピーク・エンドの法則は、次のような実験によって導き出されました。
ダニエル・カーネマン氏は、被験者にお金を払って、つぎの2つの体験をしてもらいました。その後で、どちらの体験ならもう一度しても良いかを尋ねました。
- A:痛いほど冷たい水に60秒のあいだ手を浸している。
- B:痛いほど冷たい水に合計で90秒のあいだ手を浸している。はじめの60秒間はAの時と同じ冷たさで、つぎの30秒間は温度が少し上がり、痛いほど冷たいのは同じでも、いくらかは和らげられる。
参考図書:『経済は感情で動く : はじめての行動経済学』
結果は、80%以上の人がBを選びました。
2つの実験内容を聞いたかぎりでは、Aの方を選びそうな気がしませんか? 同じ苦痛を体験するなら、より短い時間ですませたいと思いますよね。
ですが、実際に体験した後では、AよりもBの方が良い記憶(マシな記憶)として残ったのでした。ツラい体験の時間の長さではなく、エンド(終末期)の印象によって判断は変わるんですね。
このような実験から、ピーク・エンドの法則は、簡単に言ってしまえば「終わり良ければすべて良し」という心理現象であると言えます。
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マーケティングに使うピーク・エンドの法則
ビジネスをストーリーとして捉えることで、ピーク(絶頂期)とエンド(最終局面)を意識して、リピーターやファンを増やすことに応用できます。
例えばレストランでは、お客さんがお店に来てから帰って行くまでを、ひとつのストーリーとして捉えてみます。
このストーリーの中でのピークとエンドを、お客さんにとって楽しい経験にすることができれば、全体的に良い印象として記憶に残してくれるようになります。
例えば、
- ピーク:食事を楽しむ場面で素敵な演出をする
- エンド:お客さんが帰る時に丁寧に見送る
という接客をします。
ピークはお客さんの感じ方次第
ただし、ピークの経験は人によって違いますので、《食事を楽しむ場面で素敵な演出をする》以上のピークを経験したら、それがピークになります。
例えば、「料理を待つ間に店員同士の大きな話し声が聞こえて不快だった」という体験をして、それがピークになったお客さんがいたとします。
すると、エンドで《お客さんが帰る時に丁寧に見送る》ことを通常どおりにしても、ピークとエンドの2つの経験から判断して「あの店、なんだか惜しいね」という印象が残ってしまいます。
そういう場合は、離店時にめちゃくちゃ丁寧にお見送りをして、離店時の印象をピークにする必要があります。そうすれば、良い印象を持って帰ってもらうことができます。
ただし、丁寧なお見送りが最大の印象になった場合は、食事を楽しむための飲食店としてはあまり良いことではないですよね。
ブログ記事やプレゼンでのピーク・エンドの使い方
ブログ記事でピーク・エンドの法則を使うには、記事をひとつのストーリーとして捉えてみます。
このストーリーの中でのピークとエンドを意識することで、読者に良い印象を持って読み終えてもらえます。
例えば、タイトルにインパクトがあって読み進めたのに、中身に新しい発見がないと、ピークは《タイトル》になってしまい、「面白い記事を読んだ」という充実感を持ってもらえなくなります。
「タイトル詐欺だ!」って思われてしまうわけですね。
ピークを《主張か主張に至った理由》にして、エンドの《まとめ》で良い印象を残せたら、他の記事も読んでみたいと思ってもらうことができます。
人に伝える印象はプレゼンでも同じ
プレゼンでのストーリーも、ブログ記事とほぼ同じです。
初対面でプレゼンする場合は、ハロー効果によって、見た目の第一印象で人物像やプレゼン内容まで判断されてしまいがちです。ですので、話しはじめの印象は大切です。
ですが、プレゼン内容を印象として残すためには、新しい提案や、理由となる根拠をピークにする必要があります。そして話し終わりのエンドを意識することで「いいプレゼンだった」という良い印象を残すことができます。
単純に「終わり良ければすべて良し」というわけではなく、目的に合ったピークを意識することが大切なんですね。
まとめ
ピーク・エンドの法則とは、人の記憶は一つ一つのエピソードから総合的に判断しているのではなく、ピーク(絶頂期)とエンド(最終局面)の2つの印象で全体を判断しているとする理論です。
例えば、昔に観た映画を思い出す時には、印象的な場面(クライマックス)とラストの場面しか思い出せなかったりしますよね。その2つの印象で「いい映画だった」かどうかを判断する傾向があります。
ラストがハッピーエンドなら楽しい映画という印象になりますし、ラストがバッドエンドなら悲しい映画という印象になります。
このピーク・エンドの法則を応用すれば、恋愛・ビジネス・ブログ記事では、たった2つの印象に気をつければ好印象が残せます。
ただし、「終わりだけ気をつければ良い」というわけではなく、目的に合うピークを意識することが大切ですね。
さらに心理学をマーケティングに応用する方法は、こちらを参考にしてください。
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