何かお願いごとをする時、成功の可能性を高くする心理テクニックに「ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的要請法)」があります。
何も考えずに交渉した場合と比べれば、3倍近くの差が出るほど強力なテクニックです。
営業の場面では「フット・イン・ザ・ドア」「ローボール・テクニック」と並んで有名なこの交渉テクニックは、恋愛や日常の場面でも使うことができます。
この記事では、ドアインザフェイス・テクニックの解説と、交渉を成功させる3つのポイントをお話しします。優位な交渉を進めるために役立ててください。
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ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的要請法)とは
ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的要請法)とは、断られるほどの大きな要求を最初に出して、断られたら小さな要求に変えるという交渉術です。
例えば、
A:「1万円貸して!」
B:「え、それはちょっと・・・」
A:「だったら1000円だけでも!」
というような交渉術です。
ドア・イン・ザ・フェイスの語源は、『shut the door in the face(門前払いする)』という、訪問販売員がお客さんとのドア越しのやり取りを表したフレーズに由来します。
日本語で『譲歩的要請法』と名付けられているように、こちらと相手の譲歩を利用したテクニックで、「返報性の原理」を応用しています。
返報性の原理とは?
返報性の原理とは、「何かをされたら何かを返したくなる」と感じる心理現象のことです。
例えば、人に食事をご馳走してもらったとしたら、こちらも何かお返しをしないと申し訳ない気持ちになりますよね。同じように、相手が何かを譲歩したら、こちらも譲歩したくなる心理が働きます。
罪悪感にも似たような感情ですね。
つまりドア・イン・ザ・フェイスは、「そちらが譲歩してくれたんだから、こちらもそのお返しをしなくちゃ悪いな・・・」と感じる、『譲歩の返報性』が核となっているテクニックです。
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営業や交渉の場面で使う具体例
ドア・イン・ザ・フェイスを営業の場面で使うとしたら、こんな使い方ができます。
A:「2年間のプランがコスト面でおすすめですが、いかがされますか?」
B:「う〜ん・・・ いきなり2年ってのは、ちょっと不安かなぁ」
A:「では、半年間のプランで不安を解消されてみては?」
B:「半年間だと、ちょっと割高になるのかぁ・・・」
A:「二週間でしたら、無料でお試しいただくこともできますが?」
B:「じゃあ、まずはお試ししてみようかな」
もともと無料お試しの要求を通せばOKの場面では、最初に大きな要求をすることで、より通りやすくなります。
値引き交渉で使うドア・イン・ザ・フェイス
商品を安く購入したいなら、ドア・イン・ザ・フェイスを使ったこんな交渉ができます。
お客さん:「このテレビ、3万円くらい安くならない?」
店員さん:「1万円でしたらお値引きできますよ」
お客さん:「もう一声で、2万円ならどう?」
店員さん:「こちら新製品でして、1万円が限界なんですよ・・・」
お客さん:「だったら、1万円プラス何かオマケしてもらえない?」
店員さん:「・・・それでしたら、何とか頑張ってみます」
最初に大きな要求をしたことで、限界プラスアルファの結果を得やすくなります。
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ドア・イン・ザ・フェイスの実験例
このドアインザフェイス・テクニックは、1975年に社会心理学者のロバート・B・チャルディーニ氏が行なった、次の実験でも効果が証明されています。
まずはじめに、キャンパスを歩いている大学生を呼び止めて、「非行少年のグループを2時間ほど動物園に連れて行くボランティアをしてくれないか?」と頼みます。学生からしてみれば、なんの得にもならない頼みごとです。
結果は予想どおり低く、OKしてくれた学生はわずか17%でした。
次に、別の大学生には、「毎週2時間、二年間にわたって非行少年のカウンセリングをしてくれないか?」と頼みます。かなりハードルの高い頼みごとです。これには全員が拒否しました。
そこですかさず、「だったら、非行少年のグループを2時間ほど動物園に連れて行くボランティアをしてくれないか?」と頼みました。すると結果は、50%の学生がOKしたのでした。
つまり、譲歩する形で要求を下げたことで、承諾率が約3倍になったのです。
なかなか強力なテクニックですよね。
ドア・イン・ザ・フェイスの2つのお得な効果
ドア・イン・ザ・フェイスには、相手の「Yes」を引き出しやすくするだけでなく、2つのお得な効果があります。
- 責任を感じてもらえる
- 満足感を味わってもらえる
1. 責任を感じてもらえる
一つ目は、交渉ごとが「自分に有利な条件に変わった」と感じることで、責任を感じてもらえる効果です。
例えば、仕事を依頼する際に、
依頼者:「明日までに仕上げてもらえますか?」
受注者:「いやぁ、それはちょっとキツいですね」
依頼者:「・・・では、三日後ではどうですか?」
受注者:「三日後なら、なんとかしますよ」
という、譲歩したやり取りをしたとします。
この場合、受注者は自分にとって有利な条件に変わったことで、「この約束は守らなければ!」という気持ちになりやすくなります。
もともと希望する期限が『三日後』だったとしても、『明日』という厳しい条件を提示するだけで、相手に責任感が芽生えるということです。
2. 満足感を味わってもらえる
二つ目は、最終的な決定を「自分が取りまとめた」と感じることで、満足感を味わってもらえる効果です。
例えば、10万円で販売しているテレビを買おうとした時に、店員さんと交渉して8万円にまけてもらったとします。この時、あなたは満足感を味わうのではないでしょうか?
2万円も得したわけですから、店員さんとの交渉に勝った気分になりますよね。満足感を味わうことで、また同じ店員さんに接客してもらいたいと感じるかもしれません。
でもそれは、店員さんが仕掛けたドア・イン・ザ・フェイスである可能性があります。あなたが交渉で勝ったと思わせるために、譲歩して負けたふりをしてくれたのかもしれないんですね。
そのテレビは「10万円」と表記しているものの、もともと8万円まで値下げしても大丈夫な可能性もあるわけです。もっと言えば、7万円まで値下げしてもOKだったかもしれません。
交渉では、こちらが折れた形にすることで、相手は喜んでくれるんですね。
恋愛でデートに誘う場面の会話例
ドア・イン・ザ・フェイスは、恋愛の場面で使うこともできます。
例えば、相手をデートに誘いたいんだけど、なかなか良い返事をもらえそうにない場合は、あえて断られそうな大きな要求を最初に出します。
A:「今度、温泉旅行に行かない?」
B:「う〜ん、それはちょっと・・・」
A:「いきなり旅行なんて無理だよね、知ってた」
A:「じゃあディズニーランドなんてどう?」
B:「いやぁ、それも・・・」
A:「だったら、軽く食事だけでも行かない?」
B:「・・・ご飯くらいだったら、いいよ」
Bさんにしてみれば、一度断ったことで少なからず罪悪感が働きます。そして「罪悪感は無くしたい」という心理が働きます。そこで、Aさんが譲歩した形にすることで、「そちらが譲歩してくれるなら、こちらも譲歩しよう」という気持ちになりやすくなります。
さらに、最初は「温泉旅行」だったのが「軽い食事」に変わったわけですから、「軽い食事」が大したことのない要求であるように感じますよね。
このように、ドア・イン・ザ・フェイスは、対象を対比させることで感じ方が変わるコントラスト効果も同時に働いています。
ただし、Bさんにとって最初の要求(温泉旅行)がハードルの高すぎる内容だった場合は、うまくいきません。
成功させるには、次のポイントを踏まえる必要があります。
ドア・イン・ザ・フェイスを成功させる3つのポイント
ドア・イン・ザ・フェイスを成功させるには、3つのポイントがあります。
- 最初の要求で相手に不快感を与えないこと
- 最初の要求の後、次の要求はすぐにすること
- ダミーを用意しすぎて断りグセをつけられないこと
1. 最初の要求で相手に不快感を与えないこと
最初に出す要求は、相手に不快感を与えないことが大切です。
最初の要求を、相手の要望を無視した無理難題な要求にした場合は、相手に不快感を与えてしまいます。そうなったら、相手は不信感や警戒心を抱きます。
不快感を与えた後で、どんなにハードルを下げたとしても、「譲歩してくれた」とは感じてもらえません。
例えば、ナンパした女性に「結婚して!」とわざと大きな要求をして、断られたら「じゃあLINE交換だけでも」と小さな要求をしたとしても、気持ち悪がられるのは誰でも想像できますよね。
ですので、最初に出す大きな要求は、相手が不快感を抱かない程度の、ちょっと高いハードルにすることが大切です。ちょっと高いハードルであれば、もしかしたらその条件で相手がOKしてくれるかもしれません。
2.最初の要求の後、次の要求はすぐにすること
ドア・イン・ザ・フェイスは、相手が罪悪感を抱いているうちに譲歩して、小さな要求をする必要があります。
例えば、最初の大きな要求を断られてから1週間後に小さな要求を出したとしても、相手の罪悪感は薄れています。これでは、譲歩の返報性は働きにくくなります。
相手にも譲歩してもらうためには、相手の罪悪感が残っている間に小さな要求をすることが大切です。
3. ダミーを用意しすぎて断りグセをつけられないこと
本命の要求に到達するまでにダミーの要求を用意しすぎて、相手に断りグセをつけないことが大切です。
人は何度も同じことを繰り返すと、慣れる特性をもっているからです。4つ5つと複数の大きな要求をすると、相手は本命の要求に到達する前に断り慣れてしまうんですね。
「この人のお願いごとは、断るのが当たり前」
そう思われると、断ることに罪悪感を抱かなくなります。
断ることに罪悪感を抱いてもらうためには、断りづらく感じるような雰囲気を作っておくことも大切です。断りづらく感じる雰囲気とは、「そうですね!」「いいですね!」と、好意的で和気あいあいとした雰囲気です。
ドア・イン・ザ・フェイスはコピーライティングへ応用できる?
ドア・イン・ザ・フェイスは、相手が断ることで、相手の罪悪感を引き出すことが大切です。ですので、1枚のセールスレターとしては応用することが難しいです。
ただし、ステップメールやメールマガジンでは、擬似的なドア・イン・ザ・フェイスを使うことができます。
罪悪感が芽生えれば応用できる
ステップメールやメールマガジンでは、読み手にとって「これでもか!」というほどの有益なコンテンツを無料で提供して、同時に商品の案内をします。
そして、購入してくれなかった人に対して譲歩する形のセールスをさらに案内すれば、拒否し続けることに罪悪感を抱きやすくなります。
セールスコピー自体を有益な情報が入った楽しいコンテンツにすることで、「このまま何も買わないのは申し訳ないな・・・」と感じてもらうことができれば、返報性の原理が働きます。
つまり、「ドア・イン・ザ・フェイス」ではなく「返報性の原理」として考えれば、セールスコピーでも応用できるんですね。
まとめ
ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的要請法)とは、譲歩の返報性を利用した、承諾の可能性が高くなる交渉テクニックです。こちらが譲歩すれば、相手も「譲歩しなければ・・・」と感じてもらいやすくなります。
こちらが譲歩して相手に「交渉に勝った」と思ってもらえば、相手に満足感を味わってもらうことができます。そのためには、相手に決定権をゆだねることが大切です。
ドア・イン・ザ・フェイスを成功させるポイントは、次の3つです。
- 相手に不快感を与えないこと
- 次の要求はすぐに出すこと
- 断りグセをつけさせないこと
以上を踏まえて、交渉ごとを有利に進めてください。
ドア・イン・ザ・フェイスの対極にあたる心理テクニックには、「フット・イン・ザ・ドア(段階的要請法)」があります。こちらは一貫性の原理を応用した交渉術です。
状況に合わせて使い分けることで、より成功率を上げてください。
さらに説得力を高める方法を知りたい場合は、こちらを参考にしてください。
⇒ 説得力を高める16の秘訣|心理テクニックでYESを引き出す方法
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